4歳年下の妻は大人しくて逆らわないと思っていたが…浮気三昧の44歳夫が彼女に恐怖を感じた瞬間とは
義務のように女性と逢瀬
しかも結婚してから、明良さんはますますモテるようになっていた。女性に目もくれないような顔をしていたが、結婚後、少し丸くなりコミュニケーション能力も高まっていた明良さんが放っておかれるはずもない。
「かつての悪い癖が出ました。ブレーキになるものが何もなかった。さすがに社内はまずいと思ったけど、取引先の女性や学生時代の友人など、なぜか次々デートを重ねて、次々関係をもって……。それがしたいことというわけではなかったけど、なんというのかなりゆきというか」
突然、ごにょごにょと歯切れが悪くなる。特に性欲が強いわけでもないが、女性を落とすたびに「妙な達成感」があったらしい。支配欲とは言いたくないが、自分が口説いて女性がその気になっていくのがおもしろくてたまらなかったと彼は小声でつぶやいた。とはいえ、近づいてきてくれる女性なのだから、そもそも口説ける確率は高い。危険を冒して口説いているわけではないのだ。
「それでもいざとなれば断られる可能性はあるわけですよ。だからうまくいったときはうれしいし、自分に魅力を覚えてくれる女性がいることもうれしい。男としてひとつ階段を上ったような気になった。これ、正直な気持ちです」
女性だって求められればうれしい。人は身近な人の愛には慣れてしまうから、未知の人から急に求められると、その情熱を過剰に受け止めがちなのだろうか。少しずつ様子を見るかのように女性たちとつきあい始め、だんだんと悪い癖が助長されていった。
「4年ほど前がいちばんひどかった。4人の女性とつきあっていましたから。とはいえ、軽くごはんを食べてホテル直行、そのままじゃあねと別れるような関係ばかり。そのうち、仕事というか義務みたいになって、会うなりホテルということも多々ありました。何やってるんだろう、早く家に帰って息子と遊びたいと思いながらも、そういう不毛な関係がやめられない。自分はおかしくなってしまったんじゃないかと思ったこともありました」
ぞくっと悪寒
仕事が忙しくなればなるほど、女性を欲した。だがさすがに疲れ果てたのだろう、そんな生活を2年ほど続けて、明良さんは過労で倒れた。
「3日くらい意識がもうろうとしたまま眠り続けました。ふっと目が覚めると夜だったんですが、枕元に取引先の麻美が座っていた。『奥さんから連絡をいただいて』と言われたので、そのまままた意識を失いそうでした(笑)」
彼の不埒な遊びを、妻は知っていたのだ。そして倒れたときにいちばん長くつきあっている麻美さんに連絡をし、「たまに見舞ってやってください」と言ったそうだ。明良さんはぞくっと悪寒がしたという。
「麻美は『夫は女性に敬意を抱けない人だから、あなたも早く別れたほうがいいですよ』と言われたそうです。奥さんを大事にしたほうがいいよ、怖い人だよって……。確かに怖い。ゆりがそんなことをするとは思えなかった。一言も文句を言わず、僕が遅く帰ろうが、にこにこしながら『お疲れさま。夜食でも食べる?』と優しく接してくれる妻が、実は僕の行動をすべてお見通しで黙っていたとは。怖いんだけど、怖い以上に、もしかしたらとんでもなく強情で頑なな女なのではないかと、少し怒りがわいてきました」
怒るのは筋が通らない。悪いのは僕なのだから。彼はそう言った。それでも、できすぎた妻が、実は“出過ぎた”妻でもあったのが、明良さんにはカチンときたようだ。どうやって調べていたのか、探偵でも雇っていたのか。
「そしてこの先、どういう態度で妻に接すればいいのか。なんかもう、うんざりしてきてこのまま退院したくないとさえ思ってしまったんですが、仕事が忙しい時期だったので4日間で退院しました。退院時、妻はやってきて『元気になってよかった』と言いながらテキパキと手続きをすませて……。外へ出たときに『家に帰る?』と聞かれたので、思わず『会社に行く』と。妻の目がキラッと光って、『そのあとは?』って。妻が帰ってきてほしいと思っているのか、どこかへ行ってしまえと思っているのかが読めなかった。あの数秒間が1時間にも感じましたね」
ゆりさんは少しだけ微笑んで「早く帰ってきてよ」と荷物を持って、ひとりでタクシーに乗り込んだ。去っていく車をぼうっと眺めながら、彼は「会社と自宅は病院からは同じ方角。途中で会社のあたりで落としてくれればいいのに」と感じていた。
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