冤罪事件で検察と警察に1億6000万円の支払い命令も…亡くなった大川原化工機元幹部夫人の告白「控訴するなんて思わなかった。がっかりです」

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取り調べの度に東京へ

 20年3月11日に夫が逮捕された。妻は、そのことをネットニュースを見た友人からの連絡で知った。

「主人は何度も原宿署に呼ばれて取調べられていましたが、まさか逮捕されるなんて思わなかった。(逮捕容疑は)外為法違反とか聞いたけど、よくわからなかった」

 自分から夫の逮捕を誰かに伝えることはなかったが、ニュースを見た長男の妻の母親が「お父さんが逮捕されたってテレビで言ってますけど」と問い合わせてきた。

 そのうち大川原化工機の顧問弁護士を務める高田剛氏から「相嶋さん専門に河村(尚)弁護士をつけます。勾留中の衣類などを持ってきてください」と連絡が来た。何が何だかわからなかった。

 19年4月から週に1回くらいの頻度で、相嶋さんへの任意の事情聴取が続いていた。

「聴取の時は朝8時ごろ家を出て、午後7時ごろ帰ってくるので、丸一日、仕事を休まなくてはならなかった。警察署から帰宅しても主人の機嫌が悪いわけではなく、あまり心配しなかった。一度だけ警察が富士宮に来ましたが、あとは来てくれるわけではなく、毎回、東京に呼びつける。交通費だって全部自腹です。1回行くと1万円くらいかかります」

挨拶もせず踏み込む捜査員

 20年2月になると、新型コロナが蔓延して聴取が延期された。ほっとしていたのも束の間、3月になると突然、自宅に刑事が踏み込んできた。

「朝8時ごろチャイムが鳴り、出勤しかけていた主人が戸を開けると、5人の男性警官がどやどやと入ってきた。みな私服で挨拶すらしない。『パソコンを見せてください』と言われてパソコンを開く主人を、2人が挟むようにし、1人は外を見張っている感じでした」

 11時半ごろ相嶋さんは車に乗せられて東京に行った。

 夫に「夕方、(新幹線が停まる)新富士駅に迎えに行くので連絡してね」と伝えたが、それきり自宅に帰ることはなかった。その日の夜、寝ずに夫の帰宅を待った。いつ帰宅するのか聞こうにも、どこに連絡していいのか分からず、原宿署に電話することも思いつかなかったという。翌日には、相嶋さんを含め、大川原社長ら3人が逮捕されたことがテレビなどでも報道された。

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