「他人が大事にしているものを否定しがち」な中高年に耳の痛いドラマ「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」
原田泰造はすっかり主演級の俳優になった。全力で失踪もしたし、サウナでも全裸でととのってきたし、生理に詳しいおじさんも演じてきた。「♪はーらーだたいぞうです」という過去の鉄板芸を知らない人も増えた。そして、密かにセクシーだと思っている人も意外と多い(男女ともに)。そんな泰造が昭和の残滓みたいな父親を演じるのが「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」だ。上半身はスーツ、下半身はパンツ一丁、ロダンの「考える人」ポーズがメインビジュアルで、密かな泰造ファン(体目当て)を狙ったな、と合点がいっている。
【写真を見る】後ろ姿からにじみ出る“お父さん感” 主演の原田泰造オフショット
泰造が演じる主人公は、職場で女性に茶を入れるよう要求したり、ゲイの男子に「うつる」などの差別的な暴言を吐く昭和マインドのおっさんだ。もうこんな輩は絶滅危惧種と思いたいが、根深く蔓延(はびこ)っているのが令和。特に政財界・芸能界・出版界に多い気がする。
そんなおっさんも家族のために一所懸命働いているわけだが、家庭内では邪魔者扱い。愛犬にすら吠えられる始末。なぜなら前時代的な思考ダダ漏れだからだ。妻(富田靖子)がハマって推しているアイドルに「こんな女みたいな男」と吐き捨て、娘(大原梓)が趣味で描いている二次創作の同人誌を「パクリの自費出版」と見下す。ひきこもっている息子(城桧吏)がメイクに興味があると知って怒鳴り散らしたりして、家族から総スカンを喰らう。
ただし、おっさん、変わるんです。妻の友人(松下由樹)の息子(中島颯太)と出会って、偏見や傲慢を取り除き、優しさや配慮や令和的な寛容と理解を学んで、アップデートしていくんですわ。推し活・BL・クロスドレッサー(男の娘?)にLGBTQと多彩な分野の講師陣に恵まれ、案外幸せな環境が整ったともいえる。
泰造は戸惑いながらも令和スタンダードを徐々に身に付け、ブラ男子(ブラジャーを装着)の部下(井上拓哉)にも理解を示そうと試みる。娘(ペンネームは大胸筋デカパイン)が描いたBL漫画を信奉する人々の手際の良さに感心し、「部下にしたい」とさえ思うようになる。100%理解とは言い難いが、自分の価値観や尺度で物事を見ないよう努力し始めるのだ。
私もどちらかといえば泰造側。男女同権やジェンダー平等は理解しているつもりだが、2次元に浸る人の気持ちはいまだに分からない。また、推しのために時間もお金も惜しみなく費やすガチ勢には一生なれないだろうし、そういう対象が見つかったら人生が1分1秒楽しいだろうなとも思う。でも結局は、無趣味・推し不在のままで死ぬと思う。
無趣味で無神経な泰造に対して、腐女子の娘が放った言葉が「他人が大事にしているものを自分の尺度で否定するじゃん!」。耳が痛い。ま、否定はしないが、批判はする。自分の尺度を変えるつもりはなく、好きと嫌いは口に出す。ただ、アップデートは必要と痛感した次第。今期ドラマで同じニオイがする作品がもうひとつあるよね。中高年改造計画、はやりなのかな。