元不登校の通信制高校生たちが「ものすごい成長」を遂げた 「次の子が産みたくなる」奇跡の保育園で何が起こったのか

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やまなみこども園のホールで公演する理由

 10月3日の晴れた日、やまなみこども園の「くじらほーる」では、勇志国際高校の生徒たちによる劇の上演の準備が進んでいた。

 通常、コミュニケーションの授業は、学習センターの教室で行われる。一年生から三年生までの生徒たちが、自分たちで脚本を書き、役を決め、一から劇を完成させるのだ。演劇で他人を演じることによってコミュニケーションの力を磨くだけでなく、上演の準備をする中で様々な人とのかかわり方を学んでいく。

 ただ、年に3回ほど行う演劇の公演は、学習センターではなく、やまなみこども園のホールで行われることにしていた。自己表現が不得意な生徒たちには、同級生の前で演じさせるより、4、5歳の園児たちの前でさせた方がハードルが低いだろうと啓が考えたためだ。

 午後1時過ぎ、生徒たち十数人が先生に引率されてぞろぞろとやってきた。少し遅れて年中と年長の園児たちが大騒ぎをしながらホールに集まってきたが、高校生たちは見向きもせず、隅っこでスマホで音楽を聴いたり、SNSを見たりしている。

 啓は高校生たちに指示してジャージに着替えさせると、ホールの中央に園児たちを集めた。彼は全員に言った。

「今日は高校生のお兄ちゃん、お姉ちゃんが劇をしてくれます。その前に少し体を動かします。いいですね!」

 ホールの隅のピアノに女性職員がすわって演奏をはじめると、園児たちがそれに合わせて体を動かした。園が独自に作ったリズム体操と呼ばれる運動で、五感を刺激して表現力を養うものだ。ホールを駆け回りながら、スキップ、しゃがみ歩き、ブリッジなどを10セットほど行う。かなり体力を消耗する運動だ。

 体操は、年長、年中、高校生の順で行われた。毎週のようにやっている園児たちはお手の物だが、高校生はすぐに音を上げた。彼らの半分以上は運動とは縁の遠そうな様子で、2セット目には汗だくになって肩で息をしはじめたのである。足がもつれて転ぶ者、過呼吸を起こしそうな者、声にならない声で叫ぶ者など様々だ。それでもみんな頑固なまでにマスクを鼻の上までつけている。

高校生を真剣な目に変えた園児の合唱

 20分ほどかけてようやくリズム体操が終わったが、途中で一人の高校生が帰ってしまった。他の高校生たちもその場にうずくまり、青い顔をして呼吸を整えている。元気に騒いでいるのは園児たちだけだ。

 啓は苦笑いし、全員を集めて言った。

「お疲れ様です。高校生が劇をする前に、うちの子供たちからみなさんにお歌を聞かせたいと思います。高校生は一列になって、うちの子供たちは兄ちゃんお姉ちゃんに向き合うように並びましょう」

 高校生と園児たちが向き合うように立った。ピアノの前奏がはじまると、子供たちは笑顔でうたいだした。園の先生が作詞作曲した『キャンプのうた2023』だ。

 子供たちの弾むような元気な歌声はホールに大きく響いた。体を左右に揺らしたり、腕をふったりして、精いっぱい大きな声を出す。楽しそうな表情を見ていると、全力でうたうことが楽しくて仕方がないといった様子だ。

 最初、高校生たちは腰を抜かしたような顔をしていたが、だんだんと姿勢を正し真剣な目になった。遥か年下の園児たちが、上手も下手もなく、自分たちのために大声を出してうたっている姿に胸を打たれたのだろう。

 約束の丘に揺れる旗 ボロボロだって泥だらけだって 唯一無二の旗
 一番の思い出は 明日の思い出 キラキラの明日にたなびく
 僕らの旗 明日の旗

 合唱が終わると、職員が小走りに駆け寄って子供たちの列に加わり、休む間もなく次の合唱がはじまった。ピアノ演奏によって流れたのは、オペラシアターこんにゃく座の『空気のうた』だ。

 子供たちは職員に負けまいと歌声のボリュームをもう一段上げた。この合唱にはソロパートがあり、途中で子供たちが一人ひとり前に出てうたう。声がかすれる子、音程が外れる子、順番を間違える子など様々だが、全員が真っ直ぐに高校生を見つめ、堂々と胸を張って声を出している。

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