元不登校の通信制高校生たちが「ものすごい成長」を遂げた 「次の子が産みたくなる」奇跡の保育園で何が起こったのか
卒業率95%、生徒たちはほぼ元不登校
そんな通信制高校はどのような課題を抱えているのだろうか。
熊本市内の産業道路と路面電車の通りが交差するところに、熊本九品寺ビルというオフィスビルがある。ここの1階に通信制高校「勇志国際高校熊本学習センター」の事務室が入っており、教室はエレベーターで上がった7階にある。
通学生用の教室はホールのように広々としていた。室内は3ブロックにわかれて机が並べられ、入って左から1年生、真ん中が2年生、右側が3年生だ。教壇が置かれているわけではなく、生徒たちはイヤホンをつけて個別にノートパソコンやタブレットに目を落とし、オンライン授業を聞く。
熊本学習センターに通学生として在籍しているのは約150人。1年生が30人、2年生が60人、三年生が60人くらいだ。2、3年生が多いのは、全日制高校を中退して編入してくる生徒がいるためだ。
センター長の西島祐次郎はこう語る。
「今は、全国で私立の通信制高校への人気が高まっています。当校は他に福岡、千葉、宮崎、大分にも学習センターがあるのですが、人数で言えば10年前と比べ2倍の約2000人になっています。
生徒たちはほぼ元不登校の子たちです。小中学校時代にそうだったとか、高校でそうなって転校してきたといった形でうちにくる。ただ、ここ2年くらいは不登校経験がなくても、みんなと一緒に教室で勉強するのが苦手という子が入学してくるケースが増えています」
授業の間は個々にディスプレイに向き合っているだけなのでコミュニケーションをとることはないし、休み時間もほとんどの生徒がスマホに目を落としている。そうした点では、コミュニケーションが苦手な子供にとっては居心地が良いのだろう。卒業率は95%と高い。
変わるための「あと一歩」を助ける授業
西島はつづける。
「うちの生徒たちは自分を表現することに抵抗感を持っている子が多いです。小中学校で失敗した経験がトラウマになっていたり、学校や家庭でコミュニケーションの機会を奪われたりして、自分を表に出すことを恐れている。しかも世の中には『無理をしてまでがんばらなくていい』という空気があるので、生徒たちもそうした弱点を克服しようとせず、そのまま人との関係を断とうとする。そこが昔との違いのように感じています」
たしかに近年の社会には、苦手なことを直そうというより、それはそれで個性として受け止めようという風潮がある。それが悪いわけではないが、それでつまずいている子がいるのも事実だろう。
西島は話す。
「今の社会は、必ずしも昔のような形でのコミュニケーションが必要とされているわけではありません。ほとんど人とかかわらなくて済む仕事だってある。ただ、コミュニケーションが苦手な子がみんなそういう仕事に就いて自立できるかといえば、なかなかそうならないこともあります。学校が選択制でコミュニケーションの授業を行うのはそのためなのです」
同校では午前中はオンラインの授業を受け、午後の授業に選択制で興味のある授業を受ける仕組みになっている。午後の授業は13時~14時50分までの2コマで、曜日ごとにアクティビティ学習(キャリア教育など)、PBL(問題解決型学習)スポーツ文化などがあり、火曜日がコミュニケーションの授業となっている。
西島は授業について次のように語る。
「うちの生徒たちの多くは挫折を経て通信制高校に来ているので、自分の苦手なところをわかっていたり、現状を変えたいと思ったりしている子が多い。ただ、あと一歩のところが足りない。あと一歩踏み込めば、あるいは誰かが背中を押してあげれば、扉が開くみたいな生徒がたくさんいるんです。コミュニケーションの授業が、そういう生徒たちの力になることを願っています」
コミュニケーションの授業では、演劇を通して自己表現の術を学ぶ取り組みを行っている。そしてそれを外部講師として担当しているのが、やまなみこども園の山並啓なのである。
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