「もう一人産みたくなる」奇跡の保育園が、学童保育と劇団を運営する重要な意味

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卒園生と園児をつなぐ学童保育

 このやまなみこども園は、卒園後の子供たちとも深くかかわる。

 その一つが、園内で25年ほど前から運営している学童保育だ。熊本市内の小学校に在学する卒園生たちが、放課後を豊かに過ごす場が保育園内にある。毎日午後になると園長の啓氏自らワゴン車を運転して子供たちを迎えに行き、園で過ごしてもらうのだ。原則として対象は小学1~3年生だが、高学年でも希望があれば受け入れている。

 認可外保育園が学童を運営しても、公的な補助金はまったく出ない。だからスタッフはほとんどボランティアだ。園は学童専用のスタッフを2名雇っており、経営的な負担は少なくないが、それ以上に卒園生や園児に与えるメリットが大きいと考えている。

 たとえば、小学校へ進んだ子供たちが人間関係や勉強がうまくいかず窮屈な思いをしていたとする。彼らが園に来れば、学校での人間関係から解き放たれ、昔の友達と思い切り遊べる上、かつての担任だった職員に甘えたり、相談事をしたりすることもできる。また、年下の園児たちから頼りにされることで先輩として振舞うことになり、自信もつく。園児たちにとっても小学生との交流は刺激が多い。

 実際に、学童の子供たちは誰に頼まれるわけでもなく園児たちの輪の中に入り、将棋など遊びを教えたり、絵本の読み聞かせをしたりしている。職員の誕生日会が開かれれば、園児たちより大きな声で誕生日ソングをうたって祝福する。近くの公園で日が暮れるまで全力で野球をしたり、調理師に教えてもらっておやつをつくったりしている子たちもいる。学校から離れたところで過ごす解放的な時間が、小学校に入ったばかりの子供たちの不安定な心を安定させるのだ。

演劇を通してなら自分を表現できる

 二つ目の取り組みとして挙げられるのが、園長の啓が主宰する児童劇団「つめ草」だ。学童同様に25年くらいつづいている。

 啓が演劇と出会ったのは、中学生だった時のことだ。彼は幼い頃から内気で、コミュニケーションを取るのが苦手で、同級生からいじめに遭っていた。だが、ある日状況が一変する。学芸会で啓が「3年B組金八先生」を脚色した劇を演じたことがあった。すると、自分をいじめたり、遠ざけたりしている生徒たちが大きな拍手をくれて、「良かった」と口々に褒めてくれたのだ。

 啓はこう考えた。自分は直接クラスメイトと向き合えないが、演劇を通してなら自分を表現できるし、一目置いてもらえる。高校進学後、彼は演劇部に入って部活動に没頭した。演劇部の練習なら堂々と意見を言えたし、舞台に立てば別人のように全身で表現することができた。演劇を通して自分の居場所や表現の術を手に入れたのである。

 こうした学生時代の経験があったからこそ、啓は運動会やキャンプなど行事の中に演劇を組み込んだり、演劇的手法を用いた保育を実践したりしてきた。その流れの中で児童劇団を立ち上げたのは必然だった。

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