日テレは3カ月張り込み、NHKは現地に行かずパソコンで…対照的だった「北朝鮮」スクープの取材手法
オシントはNHKの独壇場に? 民放との棲み分けでよい報道を
NHKスペシャルの「調査報道 新世紀」シリーズでは“オシント”を駆使した新しいジャーナリズムの可能性を探ろうとする姿勢が明確だった。この分野では、今のところNHKの独壇場ともいえる状況になっている。
国際的にはオシントをめぐっては実践的な取り組みが行われている。オシントはヨーロッパの調査集団「ベリングキャット」が2017年頃から本格的に取り組んだことで知られるようになった。NHKは「デジタルハンター ~謎の調査集団を追う~」(2020)というBS1の番組でいち早くこの取材方法を紹介したほか、軍事クーデターが起きたミャンマーで、国民が海外の同胞と協力しネットの力で抵抗する姿を報道する「緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス」(2021)などでオシントを駆使してきた。他にも「ワグネル反乱 変貌するロシア軍」(2023)など、NHKスペシャルを中心にオシントを駆使した調査報道に取り組んでいる。
もっとも日本国内のメディアでは、NHKだからこそできる取材方法といえるだろう。公共放送として調査報道を中心とする本格的な報道番組「NHKスペシャル」があること、オシントの手法に取り組む専任スタッフも存在するなど、制作費や人材や時間をかけることができる組織だからこその取り組みだと言わざるをえない。
NHKに比べれば資金的にも人材的にも制約がある民放では、オシントはまだまだ敷居が高く、手を回す余裕はないというのが現状だろう。今回の日本テレビのように、昔ながらの「張りこみ取材」の一点突破主義で小さなスクープを積み重ね、ニュース番組などで部分的に小出しにするしかないというのが現実的なところではないか。
日本テレビの「張りこみ取材」のような、現場を見つめるからこそわかるものもある。今回の「バンキシャ!」のスクープでは、監視役に常に見張られている北朝鮮IT技術者たちのぼやきや、自分の家族について世間話をしている場面も記録されていた。そこからは、彼らも自由がない環境に置かれ、国家の命令で動かされているらしいことも伝わってきた。
新旧のいろいろな手法での調査報道には、どちらにも一長一短はある。それぞれ補い合って、知られざる北朝鮮について視聴者に知らせてほしい。
NHKと日本テレビの今回のスクープでは、北朝鮮という国がいつの間にか非常に大きな脅威になっており、身近に迫っていることを改めて知らされ、愕然とした。こうした事実はまだ広く知られていないのではないだろうか。テレビを始めとする報道機関は、今まで以上に力を入れて報道してもらいたいものだ。
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