両先発が「延長28回」を完投!? プロ野球の“スーパー延長戦”は凄まじい大熱戦だった!

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「奴には一発がある。ひょっとしたら……」

 イニング数は20回未満ながら、“奇跡の同点引き分け”として伝説の名勝負になったのが、1967年4月30日の阪神対広島である。

 阪神・村山実、広島・池田英俊の先発で始まった試合は、9回まで両チーム無得点のまま延長戦へ。

 試合が動いたのは11回。広島は1死から4番・山本一義の中前安打のあと、寺岡孝が先制の左越えタイムリー二塁打。このまま虎の子の1点を守り切るかに見えた。

 その裏、阪神は簡単に2死を取られ、「あと一人」に追い込まれる。ここで藤本定義監督は、村山の代打に辻佳紀を送る。「奴には一発がある。ひょっとしたら……」という一か八かの起用だった。

 前年秋からドジャースの捕手、ジョン・ローズボロにあやかって鼻髭を伸ばしはじめた“ヒゲ辻”は「もちろん狙っていたさ」と池田のスライダーを左翼ラッキーゾーンに値千金の同点ソロ。池田はマウンドの土を投げて悔しがり、敗戦を覚悟して風呂に浸かっていた村山は「ワーッ、ワシはツイとる!」と素っ裸で飛び上がった。

“ラッキーボーイ”のタイムリー

 12回以降は両軍とも決め手を欠き、16回まで10個のゼロが並んだが、時間切れ引き分け寸前の17回表、広島は阪神の3番手・権藤正利をとらえ、無死一塁から雑賀幸男の中越え三塁打で2対1と勝ち越し。

 さらに古葉竹識の右前タイムリーと捕手・辻佳の悪送球で2点を加えたあと、山本の右越えソロで5対1と突き放し、今度こそ勝負あったかに思われた。

 ところが、その裏、阪神も最後の意地を見せる。先頭の代打・辻恭彦の左前安打を足場に、2死後、5番・藤井栄治の右前タイムリーで、まず1点。さらに代打・藤本勝巳中前安打、朝井茂治四球で満塁とチャンスを広げると、1球ごとにスタンドの虎党の大歓声が上がるなか、安藤統夫も広島の3番手・三好幸雄から押し出し四球を選び、2対4。

 そして、なおも2死満塁で、この日の“ラッキーボーイ”辻佳紀がカウント1-2から中前に執念の同点2点タイムリーを放ち、土壇場で同点引き分けに持ち込んだ。貴重な同点打2本の辻佳は「何だか冴えちゃってね」と鼻高々だった。

 4時間45分の死闘を終えた藤本監督は「逆転できなかったが、ワシは満足しとる。それにしても、えらい長い試合やった」と大きなため息をつき、広島・長谷川良平監督も「気力の差やな。負けたときより疲れたようだ」と足取り重く、帰りのバスに乗り込んだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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