「女と遊ぶ」ではなく「女で遊ぶ」という勘違い 「空気を読む」を日本中に広めた松本人志の影響力
一説によれば、「空気を読む」という言葉を広めたのは松本人志さんだという。真偽のほどは分からないものの、2022年の「ダウンタウン vs Z世代 ヤバイ昭和あり?なし?」(日本テレビ系)ではそう放送されていた。
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その松本さんの性加害疑惑騒動が週刊文春によって報じられ、芸能界に激震が走っている。松本さんは5億5千万円という巨額の損害賠償と訂正記事の掲載を求める裁判を起こし、徹底抗戦の構えだ。真相は分からないが、さまざまなタレントのコメントを見るにつけ、松ちゃん周りの「空気を読む」人間がいかに多いものかということだけは想像するに難くない。
松本人志を笑わせることの難しさと気持ち良さ。それは吉本興業の後輩芸人だけでなく、共演者もテレビ局も視聴者も、ある一定の世代以上の人間は分かり過ぎているのではないだろうか。松ちゃんが使うもの・気に入るものは最先端なのだ、という刷り込みが、良い悪いはともかく日本全国に染み込んでいた。それが「空気を読む」や「ドン引き」「サムい」「ドヤ顔」など、松ちゃん発といわれる言葉が流行した背景なのだろう。
上記の言葉はどれも、ネガティブな意味のものばかりだ。松ちゃんの、「面白い人間が全てに勝り、面白くない奴は何をされても文句は言えない」という弱肉強食の考えが垣間見える。だからこそ後輩芸人たちは必死になって空気を読み、芸人ではないタレントたちもそのルールに従った。「ごっつええ感じ」で体を張り続けた篠原涼子さんやYOUさん、「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」で一生懸命トークに励むアーティストたち。実際にYOUさんや西川貴教さん、GACKTさんらのブレイクは、ダウンタウンとのトークがきっかけの一つだったろうし、松ちゃんルールによるメリットを享受した業界人は少なくないはずだ。
一方で、「面白くない」と断罪された側はつらかっただろう。前述の「HEY!HEY!HEY!~」では、「音楽番組なのになぜトークスキルで評価されなくてはならないの?」という困惑顔のゲストもたくさん見た。「おもんない奴」と松ちゃんが一言言えば、翌日から視聴者にもテレビ局側にもそう思われることの怖さ。特に後輩芸人たちは戦々恐々としていたに違いない。
どんな話が刺さるかわからない。けれども冷遇はされたくない。だから接待で何とかゴマをする。一般企業でもよくある光景だ。
とはいえ事細かに希望を聞けば、センスが無い奴と思われる。とりあえず空気を読み、お偉いさんが最も好きそうな場をセッティングしよう。仮にそんな流れで今回伝えられているようなことの舞台が出来上がったとしたら、さもありなんと思える。なぜなら松ちゃんに限らず、吉本芸人による「えげつない女遊びはトークの鉄板ネタ」文化は定着していたからである。
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