ジブリの作戦勝ちか…アメリカ人には難解な「君たちはどう生きるか」がGG賞を受賞した特殊事情

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賞の権利を売却

「昨年、HFPFが解散し、GG賞も消滅かと思われましたが、何しろ授賞式は高視聴率が稼げます。そこで、GG賞の権利を大手の民間プロダクションと投資会社に売却、新たにGG賞運営財団が設立されたのです。投票メンバーも300人以上に拡大されました」

 というわけで、今年のGG賞は、新団体によって運営された第1回だったのである。授賞式のTV放映も、2年ぶりに復活した。

「司会はアジア系のコメディアンを起用。ドラマ主演女優賞はネイティブ・アメリカン系。助演女優賞は黒人。脚本賞はフランス映画と、とにかく“多様性”を強調していました。『君は~』は、その傾向に後押しされた感じがします。2年前だったら、受賞は難しかったかもしれません」

 しかし、多様性はいいのだが、日本でも賛否両論となった作品である。果たしてアメリカ人は、あの作品を理解できたのだろうか?

「おそらく、わかっていないでしょう。先日、ロス在住の日本人記者にメールで訊いたのですが、『そもそもアメリカ人は、話が理解できるとかできないとか、そういう基準では観ていない』とのことでした」

 では、どこがよかったのか。

「声優です。クリスチャン・ベール、フローレンス・ピュー、マーク・ハミル、ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォーなど、映画ファンなら誰でも知っている豪華な顔ぶれです。彼らがユニークなキャラクターの声を面白おかしく演じている、その意外性が受けたのです」

 授賞式では、ジブリ関係者が誰も出席していなかったので、キリコの声を演じたフローレンス・ピューが代理で受賞した。

「もちろん、人気の理由は、絵の美しさや、音楽の魅力にもあります。実は受賞は逃しましたが、久石譲も作曲賞にノミネートされていました。彼はハリウッド・ボウルのコンサートを満席にするなど、アメリカで大人気なんです。《Princess Mononoke》組曲も、映画ファンの間では有名です」

 さらに、タイトルを、原題直訳(How Do You Live?)にせず、『The Boy and the Heron』(少年と青サギ)にしたことがよかったという。

「人気シリーズである『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』などでわかるように、何か『と』何かのタイトルは、ファンタジーの王道定番です。アメリカ人は、わざわざアニメーションで“どう生きるか”なんて説経めいた話を観たいとは思いません。しかもheron(青サギ)は、欧米では再生の象徴で、哲学者っぽいイメージもある。豪華声優と美しい絵と音楽で、青サギに導かれる少年の冒険譚を楽しんだ――アメリカの一般人は、そんな感想がほとんどだと思います」

 そして、たまたまGG賞が新しくなり、アジア系にも目が向けられるようになった、そこに見事にはまったということか。

「実は、GG賞受賞ばかりがニュースになっていますが、本作はすでにアメリカ国内を中心に50前後の映画祭に続々出品され、受賞しているんです。なかには聞いたことのないマイナーな映画祭もあり、まるでなりふり構わず出品しているような印象さえ受けます。主催者にすればHayao Miyazakiはいい客寄せになりますから、出品は大歓迎でしょう。原題とまったくちがうタイトルに変えたことといい、今回は完全にアメリカをターゲットにしているように思えます。おそらくこれは、鈴木敏夫プロデューサーの戦略でしょう。作品の難解さをかなり早い段階で見抜いたはずです。それを逆手にとり、国内では宣伝ナシで話題をつくる。アメリカでは映画祭を席巻して旋風を巻き起こし、日本での興収不足分を稼ぐ。明らかに“作戦勝ち”です」

 注目のアカデミー賞の発表は3月11日(日本時間)である。

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を執筆。東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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