コロナ専門家はなぜ嫌われるのか? 「国民は聡明だからわかってくれる」と語った尾身茂氏と、国民に向き合わない“政治主導”の深すぎる溝

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問われるべきは「国民に語りかける力」

 政治とのつなぎ役を担った尾身も判断に揺れる時があり、若手の専門家から「政治家に歩み寄り過ぎです」と突き上げを食らうこともあった。専門家は政治家に煙たがられ、一部の官僚やメディアから「スタンドプレー」と揶揄された。それでも尾身は説明者の立場に立ち続けた。そうした責任の果たし方は中国をはじめアジア各国の政治家と向き合ってきた世界保健機関(WHO)での経験に支えられてきた。

 質問を重ねると、尾身氏はよく「説明すれば日本の国民は聡明だからわかってくれるんです」と語った。「わかってもらえる」というのは、国民への信頼である。

 ひるがえって考えるに、「わかってもらえる」と腹を括れない政治家に「官邸主導の危機管理」は、荷が重いのではないか。痛みやリスクを言い出せば支持率が下がり政権が弱体化する――。そんな些末な不安に汲々とするリーダーに危機管理は難しい。国民に語りかける力、雄弁でなくても語る意思こそ問われなければならない。

 拙著『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』は、専門家を中心に政治家、知事、官僚、現場の飲食店主や福祉施設の経営者にまで広く耳を傾け、得られた証言を付き合わせて編んだ。日本の政治に欠落していたものを浮き彫りにするためである。

広野真嗣 ひろの・しんじ
1975年、東京都生まれ。慶応義塾大法学部卒。神戸新聞記者を経て、猪瀬直樹事務所のスタッフとなり、2015年10月よりフリーに。17年に『消された信仰』(小学館)で第24回小学館ノンフィクション大賞受賞。

デイリー新潮編集部

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