松本人志はこのまま引退してしまうのか 過去の「引き際発言」は若い頃から一貫していた

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成果があった「地道な笑いの啓蒙活動」

 一方、松本にはもともと「芸能界でのし上がりたい」「天下を取りたい」といった野望はなかった。初期のダウンタウンは大阪を拠点に活動しており、若手時代の松本はその状況に満足していた。東京進出は会社の意向でやむなくすることになってしまっただけであり、彼自身は全く乗り気ではなかった。

 松本は初めから自分の笑いに揺るぎない自信を持っていた。だからこそ、それがなかなか世間に理解されないことに苛立つようになっていった。でも、笑いという営みは笑わせる相手がいて初めて完結する。見る人を置き去りにするわけにはいかない。松本は大衆に向き合い、地道な笑いの啓蒙活動を続けていった。

 その成果は確実にあった。松本の笑いは多くの人に愛され、熱烈なファンを獲得した。芸能界における芸人の地位も上がり、お笑い業界はかつてない盛り上がりを見せている。そのすべてが松本によるものかどうかはわからないが、最大の功労者のうちの1人であることは間違いない。

Xでは「やる気が出てきたなぁ~」と

 昨年還暦を迎えた松本が、引退を現実的な問題として考えていたのは不思議なことではない。しかし、当然ながら今日明日にでもすぐ辞めるつもりだと思っていたわけではないだろう。最近の雑誌のインタビューでは、自身の進退についてそのように語っていた。

「急に辞められても困るやろなと思うし、ずっとおられても困るんやなと思いながら、そんな感じで日々、一日一日過ぎていってるけどね。」(「SWITCH」VOL.41 NO.2/スイッチ・パブリッシング)

 最初に週刊誌の記事が出たとき、松本はXで「いつ辞めても良いと思ってたんやけど…やる気が出てきたなぁ~。」と書いていた。これは松本の強がりだったのか、それとも本心だったのか。沈黙を貫く「お笑い界のカリスマ」が本当は何を思っているのかは、いまだに謎に包まれている。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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