“CA出身の新社長”で株を上げた日本航空と、CAをTikTokで踊らせる全日空… 両社のイメージに変化の兆し

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日本航空新社長の“安全”についての意識

 もうひとつ、日本航空の転機となったのが、1月17日に発表された元CAの鳥取三津子氏の社長就任だ。日本の航空会社では初めての女性社長となり、CA出身者が大手航空会社の舵取りを任されることになる。

 鳥取氏は1985年、当時の東亜国内航空(その後に日本エアシステムになり、日本航空に経営統合される)にCAとして入社した。その年に起きた「日本航空123便の御巣鷹の事故」の記憶について、記者会見でこう語っている。

「当時受けた衝撃が今も心に刻まれている。当時を知る者として安全運航の大切さを次世代に継承していくという強い責任感を今も持っております」

 1月2日の“奇跡の脱出劇”についても「(客室乗務員は)ものすごく怖かったと思いますし当然初めての経験だったと思います。一人残らずお客様を必ず脱出させるんだという使命感。本当に誇らしく思います」と振り返った。

「入社以来、そのほとんどを客室部門での業務に携わってきた。航空会社の根幹である安全とサービスの2つ。これが私のキャリアそのもの」という新社長が何よりも安全を強調する姿は、テレビや新聞など多くのメディアで報道された。

 今回の事故がもしなくても、鳥取氏の日本航空社長の就任は決まっていたはずだ。だがCAの仕事に注目が集まった直後に人事が発表されたことで、CAという仕事で培われるマネジメント力、そんなCA経験者を新社長に起用する日本航空という会社の姿勢が際立つことになった。

話題を呼んだ〈若くて見栄えのいいCAをTikTokで踊らせ…〉

 次期社長就任のニュースを巡っては、SNSでは次の投稿が話題を呼んだ。

〈若くて見栄えのいいCAをTikTokで踊らせたり、インフルエンサー業務させることにばかり熱心(に見える)ANAと、このタイミングでCA出身の専務を社長に昇格させるJALでCAという仕事をどう見てるかのスタンスがはっきりわかるよね。申し訳ないけど乗りたいのはどっちかは明白だわ〉

 確かにインスタグラムやTikTokを見ると、CAなど若手女性を中心にスタッフに発信させて“親近感”を演出しようとしている全日空(ANA)と、個々のスタッフはあまり前面に出さずに会社全体の安定したイメージを押し出す日本航空(JAL)との違いが明白に思える。

 全日空は、プロに転向したフィギュアスケート選手の羽生結弦さんをイメージキャラクターに起用し、彼が氷上で踊るCMのイメージも強い。そうした全日空に比べ、元CAたちが報道番組などにテレビ出演したことによって、 安全重視面で株をあげた格好の日本航空……イメージだけではそんな対比が浮かび上がる。

 実際、学生向け就活サイト「ワンキャリア」によると、両社が求める人材の特徴として以下のような違いがあるという。

全日空:「個」を大切にする文化。他とは違う自分らしさを発揮できる人が多い

日本航空:協調性を重視。周りの人を活躍させられるリーダーシップと気配り力が求められる

 日本航空は、ナショナルフラッグと呼ばれる日本の国を代表する航空会社としての伝統を受け継いでいる。1985年に520人が犠牲になる世界最大級の墜落事故を起こし、2010年には経営破綻するなど、長い間、経営再建が課題だった。一方の全日空は、 かつて日本航空に追い付き追い越せを旗印に国際線などを拡大させて逆転。今や国内線も国際線も首位。全日空は業績でも就活ランキングでも日本航空を上回っている。

 世界中の航空会社を独自に比較し「最も安全な航空会社」をランキングする「エアライン・レイティングス」(本部・オーストラリア)ではこの2社とも評価は高く、2024年版に7位に全日空、20位に日本航空が入っている。そう、安全面においても現時点においては国際的には全日空の方が高く評価されている現状はある。

 “奇跡の脱出劇”そして「安全とサービス」を強調するCA出身の次期社長が登場したことで、両社ともこれまでのイメージが大きく変わるかもしれない。そしてこれから飛行機に搭乗する際は「サービス要員」だけでなく「保安要員」でもあるCAの顔にも注目していきたい。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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