「コスパ日本一」に輝いた意外な“関東の農業県”とは? カリスマ農家が明かす「常に二番手の産地」が勝てた理由

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先人たちの先見の明も

 先見の明がある人物がいたことも群馬の農業の発展に影響したと澤浦さんは話す。

 いまや群馬を代表する観光スポットと言えるのが、道の駅「川場田園プラザ」。広大な敷地に直売所やレストラン、ベーカリーなどが並ぶ。2022年度は実に250万人が訪れ、25億円を売り上げた。道の駅のランキングで1位に輝き、テレビ番組のロケでもよく使われるので、一度は目にしたことがある人が多いかと思う。

 その所在地・川場村で1967年から4期16年にわたって村長を務めた永井鶴二氏は、主力産業だった農業と観光を結び付ける「農業プラス観光」を村づくりの根幹と定めた。その路線が奏功して今に至る。

 永井氏と任期が重なる1974~82年に昭和村の村長を務めたのが関上理八氏だ。

「山あいにある川場村は農村観光に力を入れ、土地が開けていて条件に恵まれている昭和村は、どんどん構造改善を進めて近代的な農業に発展させていく。農業を行う立地の違いを活かしたそれぞれの方向性を2人の村長がビジョンとして描いたんです。非常に先見の明のある人たちがいたということ」(澤浦さん)

 昭和村ではおおむね2000年代の初頭までに、基盤整備によって大規模な生産を可能にする基礎を作った。早めに予算を投じた農地が、効率のいい農業に欠かせない資産になっている。

 取材の終盤、澤浦さんが群馬の農業のコスパの良さについて「ある意味、光栄なことですよね」としみじみ語ってくれた。「弊社もその片棒を担がせてもらっているのではないか」、とも。

 ただ、群馬の農業にはもっと予算を投じて改善すべき点もあるという。県内には土地改良が進んでおらず、肥沃な土壌であり良い作物ができるにもかかわらず、農地1枚が狭く効率の悪い地域が残っている。

「昭和村がそうだったように、そういった農地でも基盤整備によって効率のいい農業をできるようになれば、もっと生産性は高まるはずです」

 群馬の農業の伸びしろは、まだまだ大きい。

山口亮子
愛媛県生まれ。ジャーナリスト。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリー。執筆テーマは農業や中国。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。2024年1月に、『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』(新潮新書)を上梓。共著に『誰が農業を殺すのか』(新潮新書、2022年)、『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書、2023年)など。

デイリー新潮編集部

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