なぜ松本人志はいずれ公になる訴状を“隠す”のか 「テレ朝・前法務部長」の弁護士がその意図を読み解く

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訴状がシンプル過ぎたから?

 そして世間の注目を集めている裁判では、提訴の際に訴状を明かさないメリットはあまり考えられない。なぜなら、訴状はいずれ誰でも見られるようになるからだ。このあと裁判が進み第一回の裁判期日が開かれたら、訴状を含めたすべての裁判資料は裁判所の中で公開され、原則として誰でも自由に見られるようになる。日本国憲法で「裁判は公開する」と決められているからだ。

 東京地裁であれば14階に民事記録係という部屋があって、150円の手数料を収入印紙で払えば、原則として誰の裁判であっても裁判記録を見ることができる(ただしコピーは関係者しかできない)。松本氏の裁判であれば確実に報道各社が閲覧に行くだろう。そしていずれ訴状の中身は世に知れ渡ることになる。

 だとしたらなぜ、今は訴状の中身を明かさないのか。まず思い浮かぶのは「訴状にはシンプルな骨組みしか書けず詳細なものではないので、公表を躊躇した」という理由だ。だが、今回の訴状は最初の文春報道から27日という短期間で用意されたものなので、文春記事のコピーを添えて「これは間違っている」と端的に書いただけのものであってもおかしくはない。訴状を公開して自分の主張をはっきり訴えるメリットの方が大きく思える。

文春に届くのは2月上旬~中旬くらい

 そしてもう一つ思い浮かぶ理由。それは「自分から公表しない限り訴状の中身が知られるのはずいぶん先なので、それまでに世間の関心が低くなることに期待した」というものだ。1月22日に提出された松本氏の訴状が今どうなっているかというと、恐らく訴状を受け付けた東京地裁の担当書記官が、記載の形式面のチェックを行っている最中だ。

 弁護士が何度も確認してから提出したはずの訴状でも、意外と誤字やミスがある。これを裁判所側が丁寧にチェックしてくれ、訴状の受付に支障がある場合は弁護士に修正が要請される(私も先日、関係者の住所の漢字を一文字間違えて修正を要請されてしまった)。

 そしてこのチェックが済んだ後に、裁判の被告に訴状が発送される。このため松本氏の訴状が文藝春秋社側に届くのは2月上旬~中旬以降の可能性が高い。第一回の裁判期日はさらにその先だ。それまでは訴状の中身は(送達後に文春が公開しない限り)世の中には知られない。

 それを待って、敢えて訴状を公開しないのか。しかしこの裁判への関心はそう簡単にはなくならないと思う。公判が始まるときには多くの報道陣が訴状を閲覧しに行くだろう。そうだとすればやはり、訴状を公開しない理由はあまりないのではないだろうか。

 今回の文春報道への松本氏や吉本興業側の対応はどこか断片的で、その説明の少なさが、憶測と騒ぎを加速させているように感じる。だが吉本興業は昨日になって新たなプレスリリースを発表し「現在、当社におきましては、コンプライアンスアドバイザーの助言などを受けながら、外部弁護士を交えて当事者を含む関係者に聞き取り調査を行い、事実確認を進めている」と発表した。

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