なぜ松本人志はいずれ公になる訴状を“隠す”のか 「テレ朝・前法務部長」の弁護士がその意図を読み解く
松本人志が「週刊文春」を訴えたことが話題だ。だが、そこにはあまり触れられていない“謎”がある。松本側がいずれは公になるはずの「訴状」をなぜか公開していないのだ。同じ名誉毀損訴訟を国際政治学者の三浦瑠麗氏に対して起こし、勝訴した西脇亨輔弁護士(テレビ朝日・前法務部長)が謎に迫る。
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記者クラブに配布されなかった
なぜ隠すのだろう。
松本人志氏が週刊文春を提訴してから3日が過ぎた。しかし未だに、訴状の中で松本氏が記事のどの内容を問題とし、どういった主張をしているのかは分かっていない。なぜか。
それは松本氏側が、自分で提出した訴状を公表していないからだ。松本氏の主張がどういうものなのか関心があった私は、知り合いの報道関係者と話をしてみた。すると松本氏側から訴状は一切公開しておらず、報道機関で裁判を担当する司法記者クラブの記者も誰も見ていないのだという。
訴状を公開しない理由を担当弁護士に問い合わせた記者もいたが、理由ははっきりしていない。私は以前、国際政治学者の三浦瑠麗氏を名誉毀損等で提訴し、自分が原告になったことがある。その時のことを頭に蘇らせながら、疑問に思った。
裁判には様々な種類があって、その中には、自分の主張を世間に伝えながら闘う、メッセージを込めた裁判もある。そして世間に間違った情報を拡散されたことに対抗する名誉毀損の裁判は、慰謝料というお金を請求すること以上に、今広まっている情報は間違いだというメッセージを発信することに重きが置かれることが珍しくない。
私は公開した
そうした場合、裁判を起こす側は提訴を公表し、同時に訴状のコピーなどを報道機関に配布して自分が裁判で何を訴えたいのかを説明することが多い。私が三浦瑠麗氏のツイートで名誉を傷つけられたとして2019年7月に東京地裁に提訴したときも、そうした。
提訴前夜に自宅で独り広報発表文を作り、裁判所に訴状を提出した直後、事前に調べておいた報道各社のファックス番号に一斉送信した。そこには訴状の内容を要約して書いておき、要望があった報道機関には訴状の写しをプライバシーに関する箇所だけ伏せて送信した。
拡散していくツイートで自分の名誉が傷つけられ続けることを少しでも食い止めたい。そのためには自分の主張を少しでも多くの人に伝え、対抗するしかなかった。それが2023年3月に最高裁で勝訴が確定するまでの法廷闘争の始まりだった。これは何も私だけの話ではない。人によっては裁判所内の司法記者クラブの会見場で記者会見を開いて、自分の主張を伝えている。
翻って松本氏の裁判について考えてみると、5億5000万円というお金が裁判の主目的ではないと思う。「『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張する」と松本氏の弁護士が宣言しているように、週刊文春報道は誤りだというメッセージを伝えるために起こした、名誉のための裁判のはずだ。だからこそ提訴当日、吉本興業のホームページに「提訴のお知らせ」を載せたのだろう。
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