なぜ能登半島地震は国の「長期予測」から外されていた? 南海トラフばかり強調の理由は「予算獲得の都合」も
“外れマップ”
なぜこのようなことが起こるのか。
「地震の予知はもちろん、予測も不可能なんです」
と喝破するのは、東京大学名誉教授で地震学者のロバート・ゲラー氏だ。
予知とは、地震の前兆現象を捉え、“今後3日以内に○○県でM8の地震が起きる”などとピンポイントに言い当てるものだが、
「地震との因果関係が証明された、もしくは統計学的に有意な関係が確認された前兆現象は何ひとつないのです。前兆がわかると主張する研究者は“前兆幻想”にとらわれているというしかない」
他方、予測とは、30年以内などの長期のスパンで、ある地域に地震が起きる確率をはじき出すこと。しかし、
「これは、地震は一定の間隔で発生すると考える『周期説』に基づいています。が、国内外のデータ解析研究成果は周期説が誤りであることを示しました。1978年以後、日本で発生した死者10人以上の地震をハザードマップと比較したところ、阪神・淡路、東日本、熊本、能登など多くの震災が、危険が低いとされる地域で起こっていることがわかる。ハザードどころか“外れマップ”だったわけです」
「予算獲得の都合が絡んでいる」
それにもかかわらず、政府は「長期予測」を繰り返してきた。その中でもとりわけ強調されてきたのが、前出の南海トラフ地震である。死者数が最大で32万人とされる地震が、あれだけの高確率で起こると言われれば誰もが驚愕(きょうがく)するが、
「そこには政治的意図も含まれていると思います」
と小沢氏が言う。
「切迫した危険があると言った方が防災対策の予算は通りやすい。実際、地震本部は、他の海溝型地震について『単純平均モデル』という方法で発生確率を測定しているのに対し、南海トラフ地震だけは、科学的に問題があると指摘される『時間予測モデル』を用いているのです。前者で測ればその発生確率は20%程度まで下がります」(同)
むろん警戒や備えは必要だが、“えこひいき”された数字だと指摘するのである。
地震本部の事務局を務める文科省に聞くと、
「科学的根拠に基づいて予測をしております」
と言うが、
「南海トラフ地震ばかりあおるのは、予算獲得の都合が絡んでくるからでしょう」
とゲラー氏も言う。
「日本ではいつでもどこでも不意打ちで大地震が起こり得る。政府の出すいい加減な情報に頼らず、誰もが防災に関する意識をより高めなければなりません」(同)
世界で起こるM6以上の地震の約20%は日本周辺で発生しているという。能登大地震を機に、改めてこの国に暮らすことの“覚悟”を固めておいた方がよさそうだ。
[2/2ページ]