亡くなった元カノの“呪い”に苦しめられる45歳男性 妻子とどうしても同居できない心境を告白
マンションは買ったが同居はできない
鑑定の結果は彼の子に間違いないということだった。夏帆さんは「認知するもしないも、あなたの好きなようにどうぞ」と彼に一任してきた。
「腹の据わった女性だなと思いました。夏帆のことは前から知っていたけど、友人とさえ言えない関係だったと思う。店で話すだけでしたから。でもこうなったらやはり責任はとらなくてはいけない。だから婚姻届を出そう、でも同居はしたくないと言いました。彼女はどうしてと言ったけど、美緒のことは言えなかった。僕だけ幸せになっていいとは思えないけど、夏帆に過去を話す気になれなくて……」
それならそれでいいと夏帆さんは言った。彼女は数年前に両親を亡くし、自宅を始末したばかり。中古で小さくていいからマンションを買いたいというので、彼の自宅近くに部屋を見つけた。夏帆さんが働けない期間もあるから、そのときは全面的にめんどうをみる。ただ、日常生活をともにするのは「とあるトラウマがあって、できない」とだけ話した。彼女は「わかった。いつか話せるときが来たら話して」とにこやかに答えた。
「すごいでしょう。夏帆は本当に肝っ玉の大きな女性なんです。婚姻届は出したものの、彼女は結婚したことを公にはしなかった。それからも元気で仕事を続けていました。僕のほうが心配になって、ちょくちょく顔を出すようになった。彼女は腹心の店長の女性にだけはすべて話していたようです。あるとき店長とふたりきりになったとき、『同居はしないんですか』と言われて、『ちょっとね』と答えたら、『私がこんなこと言うのは差し出がましいけど、オーナーがかわいそうだと思うんですよ。夏帆さんは別に同居しなくてもいいと言っているけど、単なる強がりなんじゃないか、と』って。でも僕は夏帆は、もっと強い女だと思うよと言いました。むしろ僕が彼女の人生のお荷物にならなければいいとさえ思っていると」
娘を見てわかった美緒さんの親の気持ち
その後、どんどんお腹が大きくなっていく夏帆さんと、彼はたびたびじっくり話をするようになった。夏帆さんが歩んできた人生を知り、彼女の店への思いも知った。親から受け継いだ飲食店なのだが、それだけではなく、もっと人が集う場所、人がつながる場所にしたいと彼女は熱く話してくれた。
「話せば話すほど、僕は彼女にふさわしい男ではないと思えてきた。長女が生まれたとき、この子が恋する人に執着して命を軽んじるようなことがあったら……と、初めて美緒の両親の気持ちが手に取るようにわかりました。いても立ってもいられなかった」
小さな命を前にして、彼はおたおたしながらも懸命に世話を焼いた。這うようになると舐めても大丈夫なほど床掃除をし、伝い歩きをするようになったときはすべてのものを排除するような勢いで整理整頓をした。やりすぎだと夏帆さんには笑われたし、自分でもこれほど神経質になるとは思ってもいなかった。
「それでも同居という形はとっていないんです。徒歩3分くらいの距離ですが別居を保っている。1歳になったころから保育園に預けていますが、夏帆の友だちや店のアルバイトの子まで娘のめんどうをみてくれて。夏帆の人徳なんでしょうね」
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