「あなたの子を妊娠した」と突然、会社に押しかけた元カノ… 45歳男性が妻に絶対言えない“ストーカー被害”の影響とは
突然の手紙
彼女に自分の人生を邪魔されてたまるか。そんな思いで彼は仕事に没頭した。相談した上司の手前もあり、仕事で恩返しするしかないとも感じていた。それでも、ときどき美緒さんの“生き霊”なのか、ふとしたときに彼女の声が聞こえるような気がしたり夢でうなされたりもしたという。
「27歳のときだったか、彼女の両親から手紙が来ました。美緒が重病で余命いくばくもない、うわごとのように僕の名前をつぶやいている。会いたくないのはわかっているが、万が一、来てくれる気持ちになったらうれしいと。悩みました。でももし僕の顔を見て彼女が安らかな最期を迎えられるなら行ってもいいのではないかと思った。こちらも贖罪の気持ちがあったんだと思います」
週末を利用し、病院の最寄り駅で両親と待ち合わせて彼女を見舞った。小さく痩せた彼女は彼を見ると目を輝かせた。
「せつなかった。彼女の人生は何だったんだろうと思うとつらかった。両親が気をきかせて病室を出ると、彼女は僕に手を差し出してきました。その手を握りしめると彼女はにこやかに笑いながら、『あなたが生きている限り、呪い続けるから』と」
彼の顔色が少し悪くなった。18年も前のことだが、彼にとっては昨日のことのように思えるのだろう。喫茶店の片隅で話をしていたのだが、彼は水を一気に飲み干してようやく大きく息を吐いた。
「もう大丈夫かと思ったんですが、今でも思い出すと過呼吸気味になりますね」
日を改めようかと提案したが、もう少し話したいと彼は言った。
「僕、彼女の手を振りほどいて廊下に出たんです。よほど妙な顔をしていたんでしょうね、ご両親が大丈夫かと聞いてくれて。ろくに返事もせずにその場を去りました。1ヶ月後、彼女の訃報が届いたけど、悼む気持ちにもなれなかった」
彼が冷たいのか、そういう状況ならやむを得ないのか。学生時代を楽しく過ごしたものの、社会人になる時点で別れていくカップルは山ほどいるだろう。納得ずくで別れたものの執着してしまう彼女の気持ちも理解できなくはないが、執着された裕孝さんとしてはたまったものではない。あげくに彼女がいなくなってしまったら、一方的に罪悪感を抱くしかなくなってしまう。恋愛の残酷な一面かもしれない。
後編【亡くなった元カノの“呪い”に苦しめられる45歳男性 妻子とどうしても同居できない心境を告白】へつづく
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