「あなたの子を妊娠した」と突然、会社に押しかけた元カノ… 45歳男性が妻に絶対言えない“ストーカー被害”の影響とは

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「勝手にしろ」と突き放すと薬を飲んで…

 つきあっているときに言われたら、気持ちは違っていたかもしれない。だが彼の心は完全に美緒さんから離れていた。いきなり子どもができたといわれても、じゃあ結婚しようとは言えなかったのだ。

「もう私のこと好きじゃないのと聞かれて、『だって別れたじゃん。好きなら別れないよ』とひどいことを言ってしまったんです。もちろん、彼女のことを嫌いになったわけじゃない。でも僕は新しい人生を歩き始めていた。今さら過去にとらわれたくなかったし、過去の責任を取れと言われても困る。申し訳ない、お金は出すから子どもをあきらめてほしい。頭を下げました」

 彼女は「絶対にイヤ」と言い張った。会社に電話を寄越し、誰彼となく「私は川村裕孝の子を身ごもっているけど、彼は逃げている」と触れ回った。彼は上司に相談し、彼女の親にもすべて話して謝罪した。だがどうしても結婚する気にはなれなかった。

「彼女は親に連れ戻されてはまた上京する。それを繰り返していました。あるとき『私、死ぬからね』と電話をしてきたので、『勝手にしろ』と言ったら彼女、薬を飲んで自殺を図りました。幸い、致死量ではなかったから助かりましたが。でもそのついでに、彼女が妊娠していないことがわかりました。彼女の親からは謝られましたが、そこまで追い込んでしまったのは僕でもある。もう金輪際、関わらないということで彼女の両親と一筆交わしたんです」

「一度だけ会ってほしい」

 ところが2年後、またも美緒さんから連絡が来た。迷惑はかけないから一度だけ会ってほしいと言われ、どこか後ろめたさを感じていた裕孝さんは言いなりになった。

「彼女が言うにはあれから大変だった、と。父親が病気で急逝、母はそれを嘆いて自ら命を絶ち、私はひとりきりになってしまったって。あまり信用する気にはなれなかったけど、彼女は父親と母親のお葬式の写真を見せてくれました。『私もメンタルを病んで病院通いをしているの。お金もないし、もう何の希望もない』って。お金がないなら上京している場合じゃないでしょと言ったんですが、彼女はどこかぼんやりして」

 誰か親戚の人とか友だちとか助けてもらえる人はいないのかと尋ねても、要領を得ない。再度、上司に相談して、その日はホテルをとり、彼女を泊まらせた。

「申し訳ないけど彼女の携帯や手帳などを調べさせてもらったんです。そして手帳に書いてあった親戚とおぼしき同じ姓の人に連絡をとってみた。すると『行方がわからなくなって親も大騒ぎだった。すぐに迎えに行かせます』と。両親が亡くなったなんて嘘だったんです。葬儀の写真は写真を切り貼りしてPCで作ったみたいです。部屋 の外で電話を終えて、部屋に入ってみると、寝ていると思った彼女がヌッと立っていて腰を抜かしそうになりました。『あなたがいけないのよ。あなたが私をこんなに不幸にしたの』と抱きつかれ、僕は振り切って逃げました」

 翌日、両親から連絡があり、ホテルに来てみると彼女がいなくなっていたという。きちんと身柄を確保しておかなかったことを反省したが、これ以上、やっかいなことに巻き込まれたくないとも思ったと裕孝さんは言う。

「こっちも若かったですから、もういいかげんにしてくれという思いでいっぱいだった。結局、彼女は僕の勤務先近辺をうろうろしているところを両親が見つけ、連れて帰ったそうです。ただ僕はあの夜、『あなたが私を不幸にした』という彼女の声が脳裏から脱けず、トラウマ状態でした」

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