時代劇俳優としての中村メイコ 「私は自分ほど役者根性のない女優はいないと思っています」と語った真意は

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気がついたら女優に

 その後も大川橋蔵(1929~1984)主演の「銭形平次」(フジテレビ/1966~1984年)、松平健(70)主演の「暴れん坊将軍」(テレビ朝日/1978~2002年)、里見浩太朗(87)主演の「江戸を斬るVII」(TBS/1987)や「長七郎江戸日記」(日本テレビ/1983~1991年)などにもゲスト出演。チャキチャキの元気な役柄が多かったが、面白かったのが、1987年2月放送の「必殺仕事人V・疾風編」(テレビ朝日系/朝日放送制作)の「主水の隠し子現れる」の回。メイコは藤田まこと(1933~2010)演じる中村主水の17年前の浮気相手・お島役だった。元カノお島の16歳になる娘は、もしや……!?とおろおろする主水。しかし、お島には主水には言えない事情があり、母と子は悲劇に巻き込まれる。メイコの明るさに、ふと哀しい翳が見え隠れして、味のある役だった。

 NHKの大河ドラマでは、1995年「八代将軍吉宗」と2008年「篤姫」の2作に出演。それまでは多忙で、大河ドラマはなかなか見られなかったという。「吉宗」では5代将軍・綱吉(津川雅彦=1940~2018)の姉・千代姫役で、跡取りのない弟に「(次の将軍は)このお千代があい務めましょうぞ」と素っ頓狂な声を出して苦笑され、「篤姫」では皇女・和宮(堀北真希=35)の侍女・庭田嗣子として睨みを利かせる。公武合体政策により14代将軍・家茂に降嫁する話には猛反対。「断じて承知できません!」。それでもと食い下がられると「ひつこい!!」。江戸に入ってからは武家風を嫌い、どこまでも御所風の生活を望む和宮一派の代表は、大奥の面々と対立。庭田は都言葉で立て板に水のごとく文句を言い連ねる。そのセリフの冴えは、さすがと思わせるものがあった。

 晩年は舞台で若手を支えた。2015年、東京・明治座での氷川きよし(46)特別公演・第1部の芝居「め組の辰五郎~きよしの大江戸千両纏(まとい)~」は、祖母のお信(中村メイコ)と二人で暮らす一本気な若者・辰五郎(氷川)の物語だった。

 第1部の芝居では大きな纏を振り、第2部の歌謡ショーでも奮闘する氷川に、メイコは親友の美空ひばり(1937~1989)の話をよく聞かせたという。

「私は自分ほど女優根性、役者根性のない女優はいないと思ってます。女優になろうと思ってなったわけじゃなくて、気がついたらなっていたから、プロ意識もないんです。よく、お母さんもやって、女優もやって、すごいですねと言われましたけど、いつも目の前に現実があったから、それを片付けていただけで、本人はいい加減なんです」と笑っていたが、それこそが中村メイコにしかない才能だった。

 多くの取材を受けていただいたことに深く感謝するとともに、個人的に一言言いたい。

 朝ドラの主人公として帰って来てください!!

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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