「化粧した顔を見て初めて涙を流す方も」 “おくりびと”が見た遺体安置所、葬儀場の“極限の光景”

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化粧をされた顔を見て初めて涙を流す人も

 9日からは金沢の葬儀場で現地から送られてくる遺体の納棺に携わっているが、ここでは遺族と話をする機会があったという。

「お化粧の前は“お願いします”というくらいで皆さんあまりお話しされないんです。でも化粧の後、口元をふっくらさせていただいたりするとすごく安心してくださいます。“そうそう、おかんてこんな感じやったんや”と言って。突然のことでご家族の死を実感できない。しかし化粧でその方らしさが戻ったのを見て、ようやく亡くなられたことを実感されるのでしょうか。そこで初めて涙を見せる方もいらっしゃいます」

 そんな時には、

「地震の時のことをお話しされる方が多い。娘さんを亡くされたご遺族の方は、御朱印帳をお持ちでしたので“(故人の)趣味だったんですか?”と聞くと、“そうそう。一番最後の見て”と。見ると元旦のものだったんです。“それをもらった後に地震にあったんや”。そうした思い出を語ってくださる時は、表情がそれまでとは変わるんです」

「流れ作業にならないように、心を込めてケアする」

 浅野さんは今回の業務に当たり、心がけていることがあるという。

「普段は1日にこれだけ多くのケアをすることはない。時間の制約もあり、ついつい流れ作業になりがちですがそうならないように、ご遺族がその場にいなくてもご遺体にあいさつし、心を込めてケアを始めるようにしています。最期のお顔なので、少しでもその方らしい表情でお別れができるように、と」

 200を超える人々の魂が、今こうして被災地から旅立っている。

週刊新潮 2024年1月25日号掲載

特集「『能登大地震』絶望を生きる」より

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