「化粧した顔を見て初めて涙を流す方も」 “おくりびと”が見た遺体安置所、葬儀場の“極限の光景”

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 この度の大地震で命を落としたあまたの人々。それを間近で見続けてきたのが、被災地に入った納棺師たちである。「おくりびと」が目の当たりにした、極限の光景とは。

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「納棺師」とは、通夜や葬儀の前に故人を清め、旅化粧をし、棺に納める“職人”のこと。遺族が穏やかに別れの時を迎えられるよう、遺体の状態を整えるのが役割だ。映画「おくりびと」で本木雅弘が演じ、広く認知されるようになった。

「今は夜の10時くらいまで1日20人ほどのケアをさせていただいています」

 と語るのは、福井市の「ソワニエ」社執行役員で納棺師の浅野智美さん。同社には提携する葬儀社が金沢市にあることから、地震を受け、浅野さんは今月6日、スタッフ3名と共に輪島市に入ったのである。

「市内の安置所に向かいました。普段とは違い、今回は体に汚れの残っている方もいるのでまず体を拭き、傷があればその処置をするところから始めます」

 しかし、現地では水も電気も欠乏していた。

「福井から、ポリタンクに汲んだ水とお湯を沸かすためのポータブル電源を持っていきました。火葬まで時間がかかることは分かっていたので、腐敗を遅らせるための処置もしましたが、お棺もドライアイスも常に不足していました」

「病院で亡くなられるのとでは見た目が違う」

 浅野さんは、東日本大震災の際も仙台に駆け付けた経験を持つ。

「津波によるご遺体には判別できないものもありましたが、今回は圧死が多く、そこまで損傷は進んでいませんでした。ただ、お顔が腫れていたり、上半身と下半身で皮膚の色が異なるご遺体も。長時間重いものが乗り、血流が止まっていたのが関係していると思います。お腹に水がたまったり、擦り傷が目立つご遺体も少なくない。これらを処置したり、化粧で目立たぬようにしてきました」

 安置所には、遺族が身元確認のために訪れていた。

「普通に病院で亡くなられるのとではご遺体の見た目や環境が違う。ご遺族自身、被災できちんとした日常が送れていないため疲れていらっしゃったのか、泣き叫ぶ方も多く、なかなか声をかけられませんでした」

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