【ゴルフ】敗れて泣き明かしたことも…「マキロイ」が16度目のマスターズ出場で明かした初優勝への秘策

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明け方まで泣き続けた

 たくさんの試合に出場して心身ともに上向かせ、マックスの状態に持って行くという考え方はとても精力的で前向きだ。だが、かつてマキロイがオーガスタ・ナショナルで味わったあまりにも苦すぎる経験を考え合わせると、そのせいで彼はいろいろなことを「考えすぎ」「構えすぎ」「意識しすぎ」になっているのではなかと思えてくる。

 そう、マキロイはグリーンジャケットを羽織りかけるほど、勝利に迫ったことがあった。

 あれは彼が3度目のマスターズを迎えた11年大会だった。マキロイは最終日の前半を終えた時点でも、依然として単独首位を走っていた。しかし、折り返し直後の10番でティーショットを大きく左に曲げ、ボールはコース外の民家の庭まで飛んでいってしまった。そのホールでトリプルボギーを叩いたマキロイは、12番では4パットしてダブルボギーを喫し、ガラガラと崩れ落ちていった。

 終わってみれば、最終日は80の大叩きで15位タイ。その夜、明け方まで母国の父親と電話で話し続けたそうで、「ロリーは泣き続けた」と彼の父親が後に明かしている。

 あの経験がトラウマになっているのかどうか。以後、マキロイは「オーガスタ・ナショナルはゴルファーにとってはディズニーランドみたいな場所だ」と笑顔で語っているものの、そのディズニーランドはいつまで経っても彼の夢を叶える楽園にはならず、むしろ苦い思い出ばかりが増えていく。

 15年大会は単独4位、20年大会は5位タイ、そして22年大会は単独2位。「あと少し」「あと一歩」がなかなか進めず、挙げ句の果てに昨年の23年大会は予選落ちとなり、彼は唇を噛み締めながら無言で去っていった。

「短いほうのリストに…」

 あるとき、米ゴルフダイジェスト誌のインタビューで「あなたは自分がグリーンジャケットを羽織るに値すると感じているか?」と問われたマキロイは、こう答えたそうだ。

「僕は何に対しても、自分が何かに値するなんて思ったことはない。ゴルフというゲームから十分すぎるものを授けてもらっているのだから、何であれ、自分自身で獲りに行かなきゃいけない、稼ぎに行かなきゃいけないと思っている。『メジャー・タイトルを、あと1つ獲ればグランドスラム』というリストには何人もの選手が、そして僕も名を連ねている。でも、僕は『メジャー4大会すべてのタイトルを獲った人』という短いほうのリストに自分の名前を載せたい」

 現在、グランドスラム達成者は、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズのわずか5人。そこに、ロリー・マキロイの名前が6人目として加わることになるのかどうか。

 マキロイも、そしてゴルフファンも、大いに身構え、ドキドキしながら、4月のマスターズ開幕を待つことになりそうである。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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