「アホと呼ばれることに複雑な思いが」「一人暮らしの部屋でイグアナに癒やされていた」 坂田利夫さんの知られざる素顔

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「静かで寂しがりやの面も」

 新喜劇では端役だった二人は漫才で開花。ただしコンビの仲は良くなかった。

 放送作家の保志学さんは言う。

「前田さんはしゃべりも流ちょうで几帳面。おおらかな坂田さんの独特なおかしさを引き出したのは自分との思いがある。一方、一人でも存在感を放ち、面白いのは坂田さんでした」

「あ~りが~とさ~ん」「あんた、バカね、オホホ~」などのギャグは流行語に。

「プライベートの時間にアホと呼ばれるのは嫌がっていました。仕事ときっぱり分けていた」(大河内さん)

 タクシーに乗って静かにしていたら「すましてる」と言われる始末。母親と外出中、周囲から「アホの坂田」とさんざん呼ばれて悲しませたことを悔いた。

 演芸評論家の相羽秋夫さんは思い出す。

「一人暮らしのマンションにお邪魔したことがあります。爬虫類のイグアナを飼っていて、懐くわけでもないのに見ていると気持ちが安らぐと話してくれました。アホ芸に自信とプライドを持ち、人気の源と自覚する一方、仕事を離れてまでアホと呼ばれるのは、という複雑な思いを抱いていました。静かで寂しがりやの面もありました」

「アホな顔して笑とったらええ」

 皆さんにかわいがっていただける優しい善人にしかアホはできない、と藤山寛美さんに声をかけられて、どこかふっ切れたという。

「吉本の公演の休憩中に仲間の所を回り、弁当や出前をつまみ食いしていた。嫌がられるどころか“何で来なかった”と言われたほど。スタッフにも分け隔てなく、人懐っこい」(大河内さん)

 体調を崩した吉本の後輩に「しゃべれんかったら舞台でアホな顔して笑(わろ)とったらええ」とさりげなく励ます温かさがあった。

 女性好きだがシャイで結婚には至らなかった。子供が「アホの子」と呼ばれるのは忍びないと感じていた。

 2009年にコンビを解散。70歳を超えてもアホと書かれた衣装を着て芸を貫く。高齢者施設に移った後も22年夏まで舞台出演した。

 23年12月29日、老衰のため82歳で逝去。50年以上親交のある間寛平さん夫妻が親族とともに最期に立ち会った。

 葬儀は近親者のみで営むはずだったが、吉本の仲間らそうそうたる面々が参集した。「あ~りが~とさ~ん」の気持ちを忘れたらおしまい、が口癖の好漢だった。

週刊新潮 2024年1月18日号掲載

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