「子どもは珠洲に帰りたくないと言っていたのに…」 能登半島地震、妻子四人を失った警察官の悔恨

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 16日時点での石川県内の死者数が222人となっている「令和6年能登半島地震」は無数の家屋と共に、それぞれの正月を過ごしていた「家族」を踏みつぶした。亡くなった人の無念、生き残った人の悲嘆。がれきの上に雪が降る被災地のそこここから慟哭が聞こえる。

 今回の地震の震源地となった石川県珠洲(すず)市にある葬儀場「JAやすらぎ会館すず」のホールに、もの言わぬ棺がいくつも置かれていた。1月13日時点で、その数20。棺の上には缶コーヒーや線香、小さな花束、ペットボトル入りのお茶やお菓子など、さまざまなものが供えられている。棺のそばには水色の袋が置いてあり、ある袋には「スマートキー在中」との貼り紙が。遺体と一緒に燃やせないものをまとめてあるのだろう。棺の上面にはそれぞれA4判の紙が貼り付けられ、納められた遺体の名前が手書きされている。そこには、能登町の避難所で命を落とした石多(いしだ)富男さん(86)の名もあった。

遺体が葬儀場に「滞留」

 心臓が悪かった石多さんが避難していたのは、能登町立松波(まつなみ)中学校。体調が悪化したのは1月9日だった。

「夜、石多さんの奥さんが“話しかけても返事がない”と看護師さんに言っていました。そして、看護師さんが心臓マッサージなどの処置をしている最中に石多さんにつないでいた心拍計がピーと音を立てたので、ああ、と思いました」(同じ避難所の女性)

 16日時点での今回の地震による死者数は石川県全体で222人。石多さんのような災害関連死も徐々に増えてきている。そんな中で葬儀場に遺体が「滞留」しているのは、火葬場も被災したためである。珠洲市、輪島市、能登町にある火葬炉計8基のうち、14日時点で稼働しているのは能登町の2基のみだ。

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