「国が補助すればするほど農業の成長が阻まれる」 元農水次官が明かす“自民党とJAの風見鶏”と化した農政の実態
“生活保護”に近い補助金も
「農水省では、農業経営の現状を維持するような補助金が圧倒的に多いんです。補助金によって現状を維持できると、農家は農地を手放さなくなり、やる気のある農家の規模が拡大し効率化するという構造改革が進まなくなるわけです。むしろ、そういう補助金をやめた方が、農業は良くなります」
零細な農家でもやっていけるように支援する、ある意味、生活保護に近い補助金もある。
奥原さんは、特定の作物の価格を維持するために補助金を出すことを「一番ナンセンス」と批判する。
「それって結局、農家に今と同じことを続けていいですよと言っているに等しいので。そうではなく、今と違うことをやらないといけない。規模拡大などで生産性を向上させるなり、ほかの作物に転換するなり、そういうことを自由にやらないと農業は発展しません」
農業のコスパが極めて悪い県の一つが沖縄だ。その元凶は、サトウキビである。農家は、サトウキビを販売して得る「原料代」の2倍以上の「生産者交付金」を得ることで、経営を成り立たせている。海外から輸入される安価な砂糖の原料に国産は太刀打ちできない。だから足りない部分を国で補填する――というのが交付金の建前だ。
沖縄に対する負い目
サトウキビの生産費は、機械化が進んだこともあって下がる傾向にある。対して原料代は近年、砂糖の国際相場と連動して上がっている。そのため例年、財務省は農水省に交付金を引き下げるべきだと指摘してきた。しかし、与党・自民党が地元の要望を受け、引き下げを突っぱねる。その繰り返しで、この4年、農水省は交付金単価を据え置いたままだ。
交付金があることで、生産の効率が悪い零細な農家の離農が遅れ、競争力が向上しないというジレンマに陥っている。
「サトウキビに多額の交付金を付けるのは、本当にいいことなんですか? むしろ、沖縄の農業を発展させたいなら、作物を限定しないで、熱心な農家が投資に使えるような補助金を付けた方がよっぽどいいはず」
奥原さんはこう考え、沖縄県にサトウキビ以外の作物で儲ける方法を考えるよう提言してきた。しかし、「県庁は、そういう方法を考えないね」と肩をすくめる。役所に限らずJAにも言えることだと断ったうえでこう話す。
「今までと同じことをして金をもらいたいという意識が強すぎる。こうやったら、もっと良くなるということをなぜ考えないのかと思うんだけど、やらない。思考停止です」
サトウキビに対する保護は、コメに比べて段違いに手厚い。理由は、政府の沖縄に対する負い目にある。1972年の沖縄の本土復帰前後に、政府はサトウキビに対する手厚い保護を打ち出し、いまもその路線を継承している。
「それがある意味、贔屓の引き倒しで沖縄の農業の発展を阻んでいるんですね」(奥原さん)
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