2024年の干支は「甲辰」 前回は東京五輪、その前は日露戦争… 今年は何が起こる?(古市憲寿)

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 2024年の干支(えと)は甲辰(きのえたつ)である。干支は十干と十二支の組み合わせなので60年で一回りする。一つ前の甲辰は1964年だった。東京オリンピックの年だ。日本が敗戦から立ち直ったことを内外に印象付けた象徴的な出来事として回顧される。

 二つ前の甲辰は1904年である。日露戦争の年だ。明治維新以来、「坂の上の雲」を目指した人々が辛くも勝利した戦争だった。後世からは、満洲事変や太平洋戦争のきっかけになったともみえる日本の転換点である。

 このように過去2回の甲辰では、歴史が大きく動いた。ではこの度の甲辰、2024年はどのような年になるだろう。国内では、時間外労働の上限規制の猶予が終了することで運輸業や建設業で深刻な人材不足になることが予測されている。いわゆる2024年問題だ。海外に目を向けると、夏にはパリオリンピック、11月にはアメリカ大統領選がある。

 だがそれだけでは、東京オリンピックや日露戦争に匹敵するようなビッグイベントとはいえないだろう。可能性だけでいえば、南海トラフなどの大地震はいつ起こってもおかしくない。一部には台湾有事を危惧する声もある。特に1月13日には台湾総統選の投開票があり、その結果を受けて中国との関係がさらに緊迫したものになるかもしれない。

 もしも本当に2024年、何かが起これば甲辰が注目されるだろう。「甲辰には歴史が動く」と自慢げに語る人が大量発生しそうだ。

 だが歴史に数学のような法則はない。「60年周期説」や「80年周期説」などをもっともらしく言う人もいるが、星座と同じで本来は何の関連性もない事象に関連性を見いだすのは、人間の得意技である。

 たとえば、日露戦争の一つ前の甲辰、1844年に大した出来事は起こっていない。一応、オランダ国王が幕府に開国を勧告したり、フランス軍艦アルクメーヌ号の琉球来航という出来事はあった。これを「鎖国の終わりの始まり」といった形で捉えてもいいが、それなら黒船が来航した1853年(干支は癸丑〈みずのとうし〉)の方が日本にとっての画期だろう。

 ちなみに1784年、1724年、1664年と遡っていっても、甲辰の年には日本史年表に載るような大事件は見つからない。

 まあ、一種の修辞技法なのである。たとえば1868年の明治維新から1945年の敗戦まで77年。その1945年から77年後は2022年だった。コロナ対策の失敗やデジタル化の遅れなどにより、2022年を「第二の敗戦」と位置付けてもいい。こんなふうに、どの年のどの出来事も、何かと結びつけて語るのは難しくないのだ。

 そもそも1年という単位も恣意的だ。12月31日から1月1日になり、年が明けたからといって、世界が何もかも変わるわけではない。天体の運行によって決まった暦と、個人の人生が完全に関連しているわけでもない。

 甲辰の日本や世界がどうなるか分からないが、「あなた」にとっては少しでもいいことが起こる年になりますように。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2024年1月18日号掲載

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