【台湾総統選】「中国が攻撃してくる?そんなことは…」 日本の報道ではわからない現地の声
台湾の総統選挙が終わった。民進党の頼清徳氏が、558万6019票を獲得して当選した。今回の総統選では、ほかに国民党の侯友宜氏、民衆党の柯文哲氏が立候補していた。中国と距離を置く民進党、中国寄りの国民党、既成政党からの脱却をめざす民衆党という色分けだった。
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投票当日、ひとりの台湾人と連絡がとれた。匿名と勤務先を明かさないという条件で話をしてくれた。Lさん、32歳。中国の企業で働いていた。選挙を前に台北に戻っていた。
台湾の選挙は住民票がある場所での投票に限られる。日本のような不在者投票もない。
中国で働く台湾人は国民党支持層だといわれていた。台湾と中国の関係がよくなければ、仕事をつづけることもできないからだ。国民党を後押しする中国は、彼らに台湾に戻っての投票を促した。中国には100万人から120万人の台湾人が働いているといわれる。BBCによると中国系の航空会社を利用すると最大で90%割引を受けられたという。Lさんはその優遇措置を利用して台湾に戻ったひとりだった。
「私は60%ほど割り引いてもらいました。仕事が忙しいので、はじめは帰るつもりもなかったんですが、勤める会社に国から指示があったのか、1週間の休みが半ば強制的に伝えられて。1年ぶりの里帰りです」
Lさんが匿名を望んだのは、中国や国民党の希望に反して民衆党の柯文哲氏に1票を入れたからだ。
「中国で働く台湾人は国民党支持なんて誰がいったんでしょうか。私は同僚の台湾人3人と帰国しましたが、ひとりは民進党に1票、私を含めたふたりは民衆党派ですから」
中国や国民党は中国で働く台湾人有権者の傾向を読み間違えているということなのか。
「中国が攻撃してくる? そんなことはない」
今回の総統選は台湾と中国の対立軸で語られることが多い。しかし台湾人にその話を向けると、困ったような表情を浮かべる人が多い。
「福祉面の充実を期待して選びます。母の介護があるので。中国が攻撃してくる? そんなことはないですよ」(男性。42歳)
「私は台湾人。その思いはここ5年ほどで強くなりました。ただそれは民進党とか国民党とかとは別の話。生活を守ってくれることがいちばん」(女性。38歳)
「民進党も国民党もいっていることがよくわからない。昔の政党って感じ。中国共産党は怖いけど」(男性。24歳)
台湾でいまのような総統選挙がはじまったのは1996年のことだ。戦後、台湾では国民党の一党独裁がつづいたが、蒋介石から総統を引き継いだ息子の蒋経国の時代に民主化の基礎がつくられる。戒厳令が解除され、新聞の発行が認められ、野党が誕生していく。直接選挙というスタイルを採用したのは李登輝だ。しかしいまの若者は、当時の民主主義へのうねりを知らない。生まれたとき、すでに国民党と民進党の対立構造が存在していた。
台湾の人々が、台湾人としてのアイデンティティを強める一方で、政治への関心が薄れていく傾向を民進党と国民党はよくわかっているといわれる。しかしそのスタイルを変えられない。中国が覇権主義傾向をより強めているからだ。そのなかから民衆党が生まれたと専門家は指摘する。今回の選挙で民衆党は370万に近い票を集めた。
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