和田毅「人的補償騒動」を“玉虫色”で決着させていいのか…NPBが真相解明に乗り出す必要性

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NPBのリーダーシップ不足

 そして、今回の件で最も問題なのは、プロ野球を統括している日本野球機構(NPB)の姿勢ではないだろうか。一連の報道が出た時点で、人的補償のルールから逸脱したやり取りがあったという疑惑は深まっており、その時点で少なくとも両球団の責任者から聞き取り調査を行うなどのアクションは起こすべきである。仮に、ルールに違反するようなことがなかったのだとしても、今後、こうした疑惑が起こらないよう対策は必要だろう。

 具体的な対策としては人的補償の規約にある「外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手名簿」の扱いの見直しである。

 選手名簿は極めて重要なものであるにもかかわらず、当該球団間に一任されており、NPBはタッチしていないという。極力漏れることを避けるための措置と考えられなくはないが、このままの運用では、両球団間の話し合いで名簿の変更などが可能になってしまう。そうならないためにリストと人的補償の対象となる選手の指名はNPBを介して行い、その間で話し合いなどが起こらないような仕組みとすべきだろう。

 加えて、今回の一件で明らかになったのが、日本球界全体のコンプライアンスに対する意識の低さと、NPBのリーダーシップ不足だ。選手の移籍に関するルール違反という疑惑が出たのであれば、他の球団からも、それを追及する声があっても良さそうなものだが、今回の騒動では、そういった話は今のところ全く出ていない。そんな状況を見ていると、過去の人的補償についても同様のことがあったのではないかという疑念も当然出てくる。

放置すれば“プロ野球離れ”にも影響

 プロ野球界では、過去にも、逆指名が可能だった大学生と社会人のドラフト指名対象となる有力なアマチュア選手に対して、「栄養費」という名目で裏金を渡していたことが大きな問題となったことがあった。具体的なやりとりが明るみになったことで、当該球団の当時のオーナーや幹部は辞任し、ドラフト会議のルールも変わった。が、この問題が発覚するはるか以前から、規約で設けられた以上の金額が選手に支払われることは“常識”となっていた。人的補償についても、裏金問題についても、「ルールに違反していても、他の球団もやっているんだからうちもやるのが当然」という意識が球界に蔓延していると言えそうだ。

 本来であればNPBが規約、ルールが正しく運用されているかをチェックし、違反があれば正すというのがあるべき姿だが、今回の騒動を見ても分かるようによほどのことが明るみに出ないと動かないというのが現状である。

 多少の違反は大目に見ても、リーグとしての運営に支障がなければ問題ないという考え方もありそうだが、今回のような件が続くと、ファンのプロ野球離れに発展することも大いに考えられるだろう。

 何事もおおらかだった昔とは違い、プロスポーツチーム、リーグにもコンプライアンスが求められる時代となっていることは間違いない。今回の騒動をきっかけに、日本のプロ野球界があるべき姿に代わっていくことを切に願いたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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