【能登半島地震】避難所で性暴力から女性を守るには 物資と引き換えに行為を強要…“3.11”で報告された衝撃的な事例
物資を提供する見返りに…対価型ハラスメント
調査を行ったのは、これまで福島や盛岡、神戸などで女性の性暴力被害者の相談にのったり支援をしたりしてきた人たちだ。災害のたびに性暴力の被害を訴える声を聞いていたという。NHKの番組では上記のほか、避難所などで女性がトイレに行く時に男性が跡をつけてきた、酒に酔った男性が若い女性のそばにごろんと横になる、夜になると男性が布団に入ってくる、など様々なケースを伝えていた。
6歳から12歳までの女児たちからも「成人男性からキスしてと言われた」「トイレまでついてくる。着替えをのぞかれる」「母親を含めて誰にも知られたくない」といった証言があり、事態は深刻だ。
関係者がとりわけ衝撃を受けたのは、生活必需品などの物資や避難場所を提供する見返りに行為を強要する「見返り型」「地位利用型」事例が複数あったことだ。番組では、
「その調査書を読んだ時は手が震えてしまった」「単身の女性もけっこう被害にあっている。日頃から強くない立場の人が被災ということで、災害にあうことで余計にぜい弱性が増してくるわけですね。それでそういう被害にあうっていうことが、この調査で明らかになってます」
と、調査メンバーの湯前知子さん(世界女性会議ロビイングネットワーク事務局長=放送当時)が意見を述べていた。調査メンバーの正井禮子さん(NPO法人ウィメンズネット・こうべ代表)も、問題の深刻さをこう語っていた。
「帰る家がない。食べるものがないという状態。本当に深刻だったと思うんです。そういうなかで物をあげる。住む家をあげるっていう中で、そうしないと生きていけないと思った時に対価型ハラスメントも起きた」
避難所の運営責任者を男性が務めるがち、という点が問題の背景にある。それゆえ、避難所の運営に女性ができるだけ参加できるようにすることや、相談窓口を設けるべきことなどを報告書は提言していた。要素としては、
・災害直後からの暴力防止の啓発・相談支援の充実
・避難所の改善(プライバシーの確保等)
・被害者への支援・連携体制づくり(行政・警察・医療・女性支援センターなど)
・防災・災害対策における女性の参画と男性との協働(意思決定の場の男女平等)
といった点だ。
特に立場の弱い女性が周囲に気兼ねすることなく相談できるかどうかはとても大切だ。NHKの番組では、女性たちが声を上げてプライバシーを守る環境をつくった避難所のケースも紹介されていた。
この報告書は政府(内閣府)に提言として出され、政府もその後、国の防災基本計画や「男女共同参画の視点からの防災・復興取組指針等」(2013年)にも災害時の安全性の確保や、復興過程における女性の参画を促進することが明記された。
これによって2016年の熊本地震の発生後は、災害直後からDVや性暴力防止の啓発活動が進められたほか、女性の意見や視点を取り入れた防災計画やプライバシー保護と安全を重視する避難所運営へと改善が行われた。熊本市は性暴力への注意喚起と相談窓口を記したチラシを配布し、そこには何が性暴力なのかを子どもでも理解できるよう、東日本大震災時の「着替えをのぞかれた」「トイレまでついてくる」などといった具体的な被害事例も記された。女性の防災リーダーの育成に力を入れる自治体も現れているという。
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