【能登半島地震】避難所で性暴力から女性を守るには 物資と引き換えに行為を強要…“3.11”で報告された衝撃的な事例
能登半島地震の発生からおよそ2週間。被災地では交通の便が劣悪な中でも、少しずつ「避難所」の整備が進められている。
こうした折、1月10日の日本テレビの夕方ニュース「newsevery.」は、女性の避難生活において大切なことは何かという特集をしていた。筆者が見た限りでは、今回の震災に関して「女性を守る」という視点から報じた、初のテレビ報道だった。【水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授】
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【写真】地震報道での絶叫に称賛…エースに上り詰める可能性も NHK山内泉アナ
番組は、ジェンダーと災害を専門にする関西国際大学の斉藤容子客員教授に話を聞きながら、避難所で女性の安全やプライバシーを守るために必要なことを考えていくという内容だった。
その中で女性の「男性からの視線」に触れていた箇所があった。七尾市の小学校にできた避難所では約200人の避難者のうち6割が女性だという。中継レポートをした鈴江奈々アナは以下のように伝えた。
「(女性たちは)実際にトイレや着替えなど様々な不安やストレスがあるとおっしゃっていました」
この避難所で話を聞いたある女性の声を拾うと、
――人が通ったり目隠しもない中、ここで着替えは?
「できないです。自宅が一部使えるところがあるのでどうしても着替えたい時は自宅に行って着替えるか。(避難所に)女性だけの更衣室があれば違うと思いますね」
――ちょっとしたことでも工夫や配慮があれば助かることは?
「女性専用の受け渡し場所(が欲しい)。実際に女性の生理用品は(避難所では)大人用のおむつと一緒に並べられているので、(専用の場所が)あったらいいかもと思います」
鈴江アナは「また家に戻れないわけではないけれど、不審者が多いから家で一人ではいられないと、防犯面での不安の声も聞かれました。被災された方々のそれぞれの不安、ストレスというのがあります」とレポートしていた。
子どもも含めた世代が視聴する夕方の時間帯もあってか、番組では「性暴力」という直接的な言葉こそ使われなかったものの、「不審者が多い」など、被災地の女性たちが性暴力にあう不安を抱えていることは言うまでもない。
実は、被災した女性たちが避難所などで性暴力被害にあうケースは、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災でも報告され、国も問題視している実態があるのだ。
「避難所のリーダーから性的行為を要求」…性暴力対策は十分か?
1995年の阪神淡路大震災では、避難所などでの深刻な性暴力、DVの被害を訴える声が女性の市民団体などに相次いだ。しかし一部週刊誌などの報道では「デマ」「虚言」とされ、被害者も口を閉ざし、深刻さが広く意識されることはなかった。
しかし、2004年のスマトラ島沖地震で、被災した女性への性暴力に対し、女性たちが抗議の声を上げたことがきっかけで、性暴力根絶を訴える国際的なうねりが生まれた。そして2011年には東日本大震災が起き、その後、性暴力被害者の支援活動をしている市民団体や大学の研究者らの協力によって、日本で初めて震災と性暴力についての本格的な調査が実施された。
NHKは、2020年3月1日に放送した「証言記録東日本大震災(90)『埋もれた声25年の真実~災害時の性暴力~』」という番組で、この調査について放送している。そこには体験談が生々しく描かれている。
「避難所のリーダーに、『(夫を亡くして)大変だね。タオルや食べ物をあげるから、夜、取りに来て』と言われ、取りに行くと、あからさまに性的行為を強要されました」(震災で夫を亡くした女性)
「複数の男性に暴行されました。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にも言えませんでした」(避難所のリーダーなどから暴力を受けた女性)
「仮設住宅にいる男の人もだんだんおかしくなって、女の人をつかまえて暗い場所に連れていって裸にする。周りの女性も“若いから仕方ないね”と見て見ぬふりをして助けてくれませんでした」(20代の女性)
こうした証言がまとめられたのは、東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」という調査報告書だ(2013年編集・東日本大震災女性支援ネットワーク調査チーム)。寄せられた被害の事例は82件。うち11件は10歳未満の子どもが被害者だった。20代から60代まで年齢は幅広いこともわかった。
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