「小さな資源循環」で環境問題を解決する――前田瑶介(WOTA代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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環境問題は資源問題

前田 水処理の要諦は、水を自在にコントロールする技術だと思っています。いままでの水処理は不純物を取り除いて、水を標準化するところまでです。でも水利用はさまざまですから、スペシャライズする方向があってもいい。おいしい水を追求したり、浴びて気持ちのいい水を作ったり、あるいは健康に寄与する水ですね。将来的にはそうした方面もいろいろ探究していきたいですね。

佐藤 いま学校では、小学4年生で水処理について学びます。そこでは「再生水」がキーワードになっている。再生時にへドロからレンガが作り出せるなどの内容も盛り込まれていて、中学入試では頻出問題です。教科書にWOTA BOXの載る日も近いと思います。

前田 そうなれば、うれしいです。私の小学生時代の教科書にも環境問題は取り上げられていましたが、当時、そこにあった生態系の図には強い違和感を覚えた記憶があります。それは、人間の活動を除いて、人間以外で循環している図だったんですよ。

佐藤 環境問題は人間の問題なのに、自然界の循環だけが描かれていた。

前田 何かの死骸が他の生物の役に立って、その生物が今度は餌になってという話で、つまり誰かに不要なものは、誰かに必要なものになり、循環するという話でした。人間の活動だけが循環していない。

佐藤 人間の活動が循環しないと環境問題につながらない。

前田 人間にとっての環境問題は、資源の問題に重なります。その資源は有限で偏在していて、常に足りてない。その中で人類が何とか調和を取ろうとして、これまで資本主義で対応したり、あるいは共産主義で乗り切ろうとしてきたわけですね。

佐藤 その通りだと思います。

前田 ただ、資源が不足している状況では、分配論では解決しない。100の資源を200カ所に分配したり、100で済むように節約する方向では、なかなか全体的な平和にならないと思うんですよ。千ある資源を100カ所に対して分配するような余裕がないと、社会は安定しない。そう考えると、資源循環をコントロールし、資源利用の効率を飛躍的に高めるしかない。

佐藤 まさにWOTAのシステムがやろうとしていることですね。100%近く再生できるのなら、少ない水でいい。

前田 しかも水資源や水インフラを前提としない場所でも生活できます。

佐藤 資源の制約から逃れるためには、このやり方を応用していけばいいということですね。

前田 小さく資源循環をさせてコントロールしていくことが必要なんです。いま環境問題は脱炭素ばかりが叫ばれていますが、脱炭素はKPI(重要達成度指標)であって、KGI(重要目標達成度指標)ではないというのが私の考えです。KGIをエネルギー自給率の改善に置いて、できるだけ小さな資源循環によってエネルギーを確保する。それを目指す場合、偏在が著しい化石燃料はエネルギー源としてターゲットにはなりません。その結果、自然と脱炭素の方向に進みます。先ほどお話ししたWEFAMすべて同様です。小規模分散型水循環システムのように小さな資源循環をどれだけ作っていけるか、環境問題や資源問題の解決はここにかかっていると思っています。

前田瑶介(まえだようすけ) WOTA代表取締役CEO
1992年徳島県生まれ。東京大学工学部建築学科卒。同大学院工学系研究科修士課程修了。在学中に複数社を起業。現在、WOTA CEOとして、水問題の構造的解決を目指す。その製品「WOTA BOX」は国際的に注目され2020年「グッドデザイン大賞」、21年英王立財団の 「ウィリアム王子特別賞」、24年米国CES「Innovation Awards」を受賞。

週刊新潮 2024年1月4・11日号掲載

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