「小さな資源循環」で環境問題を解決する――前田瑶介(WOTA代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】
全体と部分を同時に考える
佐藤 前田さんは、中学時代に科学コンテストで賞をもらい、東京大学では都市計画を学ばれていますが、環境問題や水問題への取り組みの原点はどこにあるのですか。
前田 一つは、出身地が徳島県西部の山奥だったことですね。少量多品種の農業を生業としてきた地域です。上下水道はなく、近隣のほとんどの集落は、近くの湧水からポンプで水をくみ上げ、ホースで家に引き込んでいました。
佐藤 学校は近くにあったのですか。
前田 山道を歩いて通っていました。最初は祖母がついてきてくれたのですが、慣れると一人で通うようになる。その通学時間はただ歩いているだけで、やることがないんです。そこで、いろいろ観察するようになった。例えば、季節で苔の生え方が変わるんですね。あるいは木が一本折れて光が入ると、苔の種類が変わる。
佐藤 苔にもいろいろな種類があり、さまざまな状態があることが見分けられるのですね。つまり苔に対して分節化が行われた。だから都会育ちの人には見えないものが見える。
前田 私は自由研究が好きで、当時から全体と部分を同時に計算することに興味がありました。小学6年生の時の研究は、鳥の鳴き声についてでした。森の中では、いろんな音が聞こえます。祖父なら「ヤマガラがいるな」と分かるのに、私には分からない。それで野鳥の鳴き声を録音して波形データに分解し、NHKが出している野鳥の鳴き声のマスターデータと対応させて、森にどんな鳥がいるか、わかるようなプログラムを作ったんです。
佐藤 マクロコスモスとミクロコスモスをつないだわけですね。
前田 はい。全体と部分を同時に考えるのは、生態系においても都市計画においても非常に大切です。
佐藤 それにしても小学6年生としては非常に本格的な研究ですし、問題意識も高い。いったい、どんな家庭環境だったのですか。
前田 父の方針で家にテレビもラジオもなかったのですが、インターネットだけはつながっていた。それでわからないことは自分で調べたり、大学の先生にメールで聞いたりしていましたね。
佐藤 賞をもらったのは、クモの糸の研究でしたね。
前田 クモが食べる餌と一番強度の強い縦糸との関係性について研究しました。クモは体の中で餌を糸に変換しているわけですが、要はタンパク質を食べてタンパク質を出しているだけです。昆虫は極めて良質なタンパク源といいますが、そこを見極めたかった。
佐藤 これは中学時代ですね。
前田 中学2年生です。これが中高生向け科学コンテストで最優秀賞をいただき、副賞でアメリカに行かせてもらいました。その時、元副大統領のアル・ゴアさんのスピーチを聞いたことが、環境問題に取り組む契機となりました。
佐藤 環境問題を主導してきた論客です。何が印象に残っていますか。
前田 環境問題は人類のハードルでもあるけれど、人類がユニファイ(一体化)するためのオポチュニティ(好機)でもある、という趣旨のお話をされていた。とてもロマンチックな考え方ですよね。それから、環境や自然はリアクティブ(受動的)に観察するだけでは本質的な理解・解決にはつながらず、プロアクティブ(主体的)に取り組む方が広がるし深まる、と思った。
佐藤 医学でいえば、解剖と手術の違いですね。
前田 ええ、そこで理学をベースにした自分の純粋な知的欲求が、社会的な活動を目指す工学的な方向に変わりました。そして帰国後、瀬戸内海の豊島(てしま)で開かれた環境問題のワークショップに参加したんですね。
佐藤 いまはアートの島ですが、以前は、産業廃棄物が不法投棄された島として知られていました。
前田 過去には住民訴訟も起きていました。廃棄物と排水の処理が不十分だったので、人が住めない場所ができてしまったんですね。そこで改めて排水処理は早い段階でやっておかないとダメだと認識した。でも、どの国も排水処理から先に整備するところはないんですよ。まず浄水インフラを造り、排水量が増えて環境が汚染されるようになって、初めて排水処理をする。
佐藤 企業にとっては、費用もかかりますからね。
前田 その通りです。ただ、水は他の廃棄物の処理と違って、化学反応はシンプルなんですよ。
佐藤 水は扱いやすいのですね。
前田 私が取り組みたいテーマは、水(Water)、エネルギー(Energy)、食料(Food)、空気(Air)、素材(Materials)のWEFAMですが、その中で水が一番製造業化しやすい。また日本のモノづくりで強みがあるのは、複雑な要素をすり合わせて解決していくところです。水処理はそこにうまくはまります。それで水処理の製造業化というテーマに取り組み始めました。
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