「上司の愛人だった妻」「シングルマザーの実母」二人の秘密を知ってがく然…50歳「不倫男性」の心境「僕には女難の相があるのでしょうか」
「女」としての自分しか見せなかった母
ところが母にも秘密があった。1年ほどのち、元気になったと思っていた母に転移が見つかり、意外なほどあっけなく逝ってしまったのだが、彼の父親が通夜に訪れたのだ。
「僕の戸籍に父親の名前はなかったし、母は未婚で僕を産んだとは言ったけど父に関してはまったく言及しなかった。聞いてはいけないと僕も思い込んでいました。僕が結婚するとき『もし父親という人がいるのなら知りたい。最初で最後の質問だから』と言ったんだけど、母は『もうこの世にはいない』と言い切った。でも生きていたんですよ。しかも彼は僕の存在を知らなかった」
もう通夜の参列者もいなくなった時間帯に、その男性はひっそりとやってきた。かなり高齢に見えたが、足元はしっかりしていた。母の知り合いなのだろうと思ったとき、ピンとくるものがあった。自分に似ていると思ったのだ。
「すでに受付は終わっていたので、彼は僕に香典を差し出しました。その名前が珍しかったので確信したんです。実は子どものころ、一度だけ母に来た手紙の裏を見て、変わった名前だなと思ったのを思い出した。それ以降、手紙は見たことがなかったから、母は手紙を職場で受け取っていたのかもしれません」
なんと彼の母は、彼の父とずっとつながっていたのだという。息子がいることを相手に知らせずに、最初から最後まで「女」としての自分しか見せずに。別れてから数年間、音沙汰がなかったが、その後、偶然の出会いを経て関係が復活した。それ以降は、つかず離れずという関係が続いたらしい。彼の父親はそう話した。父の幼なじみだけがふたりの関係を知っていて、連絡役を買って出てくれていたようだ。
「葬儀に来た父は、『あなたはもしかしたら……』と言いました。僕が息子だと直感でわかったんでしょうね。僕自身も感じるものはありました。だけど『僕の父は別にいます。交流もありますから』と嘘をつきました。母が隠し通したことは僕も隠さなくてはいけないような気がした。父は『そうですか』と言ったけど、何か言いたそうでした。でもそんな父を僕は二度と見なかった。もしかしたら白状したほうがよかったのかもしれませんが」
母によって、実の父に存在を隠された自分。母はなぜそうしたのか、彼にはわからなかった。その事実を、妻に伝えることもできなかった。
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