ジャニーズ、宝塚、ビッグモーター… 2023年の「不祥事会見」の共通点、今後最も危ない業界とは

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日本型組織にとっての「定番の病」

 さて、これまでの二つのタイプの不祥事は、今の日本人を苦しめている比較的に新しい問題だが、3の「ムラ社会型不祥事」はちょっと違う。それはかねて「セクショナリズム」や「タコツボ化」と呼ばれる、日本型組織がなかなか克服できない定番の「病」だからだ。

 それを象徴するのが、日本大学だ。アメリカンフットボール部の寮から違法薬物が見つかったという報道が出た23年8月2日、林真理子理事長は取材に応じて、「そういうことは一切ございません」と疑惑を全否定したが、これは誤りだった。なぜこんなことになったかというと、薬物所持の事実を把握していた澤田康広副学長が、12日間も警察に届け出なかったことが大きい。事実確認が遅れたことで、正確な情報が林理事長に届いていなかったのだ。

20年間で危機管理はほとんど進化せず

 この話を聞いて、危機管理のプロたちの頭に浮かんだのは、00年に起きた雪印の集団食中毒事件だ。この時の会見で、登壇していた石川哲郎社長(当時)に、会場にいた大阪工場の工場長が、マスコミの前で「製造ラインに汚れがあった」と発言。石川社長が「きみ、それは本当か」とがくぜんとするシーンがあった。要するに、製造部門は食中毒問題を自分たちで解決しようと考えて動いており、経営トップを蚊帳の外に置いていたのだ。

 こういう「セクショナリズム」や「タコツボ化」は日大だけではなく、令和の不祥事企業でも当たり前のように見られる。厳しい見方をすれば、この20年間、日本企業の危機管理はほとんど進化していないのだ。

 では、そんな「ムラ社会型不祥事」の会見は、どんな日本の「世相」を表しているのか。それは8月8日に開かれた日大会見で、林理事長が学内スポーツ分野に対して述べた言葉がわかりやすい。

「はっきり言って遠慮があった。就任して1年、いろいろなことをやってきましたが、後回しにしていたというのは事実であります」

 サラリーマンなどで共感する人も多いのではないか。この分野はわれわれがプロだとか、この世界のことは誰よりも詳しいと自負する人たちの「聖域」に対して、同じ組織内であっても部外者はなかなか口を出すことができない。実は日大のような縦割り組織は日本中いたるところにあるのだ。

今後危ない業界とは?

 不祥事会見というと、これまでは謝罪に誠意がないとか、失言や暴言を繰り返してしまったとか、テクニック的な部分のミスが指摘されることが多かったが、23年の不祥事会見はもはやそういう次元の問題ではなくなった。その組織がこれまで隠し続けてきた「爆弾」が一気に暴発しているような印象だ。

 この傾向は24年も続くだろう。「不発弾型」で危ないのは歌舞伎や花柳界、映画や演劇など閉鎖的で伝統的な指導が残る世界だ。「記者クラブ」など時代錯誤的なシステムに依存するマスコミの恥部も続々とあらわになるだろう。「過重ノルマ型」では国内市場で拡大路線を続けてきた外食、小売、保険などで発覚する可能性が高い。「ムラ社会型」で言うと製造業などのメーカーは、技術部門などが「聖域」になりやすいのでかなり危うい。と思っていたところ早速、23年の年の瀬も迫った12月20日、ダイハツ工業が車の衝突試験不正問題で会見を催す事態となった……。

 ただ、なによりもわれわれが危機感をもたないといけないのは、不祥事会見から浮かび上がる現代の「世相」そのものだ。「過去の悪行」が発覚するのにおびえながらうそをつき、人口増時代の栄光が忘れられない世代から重いノルマを課せられる。そして、風通しの悪い組織の中で、他人に遠慮をして言いたいことも言えない。そんな「苦しむ日本人」が増えていることを不祥事会見は示唆している。

 つまりわれわれは、他人事感丸出しで大炎上した兼重氏を他人事として笑っていられないのである。不祥事会見に感じる怒りや憤り、そして醜悪さは、われわれ自身の中にも潜んでいるのだ。

 新年は、他人の不祥事で大騒ぎをする前に、まずはこれまでの自分の行いを省みた方がいいかもしれない。

窪田順生(くぼたまさき)
報道対策アドバイザー。1974年生まれ。雑誌や新聞の記者を経てフリーランスのノンフィクション・ライターに。現在はライター業とともに、広報コンサルティングやメディアトレーニングも行っている。広報戦略をテーマにした『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』等の著書がある。

週刊新潮 2024年1月4・11日号掲載

特別読物「『ジャニーズ』『宝塚』『ビッグモーター』『日大』 『不祥事会見』で読み解く『2023年』日本の世相」より

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