山梨学院大「オツオリ」から東京国際大「ヴィンセント」まで…箱根駅伝の留学生ランナーは「ケニア人ばかり」の意外な理由

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ケニア人ばかりが来日する理由

 柳田さんが運営するキャンプの所在地はリフトバレー州にあるニャフルルで、標高は約2400メートル。都市部の人口は3万人ほどしかいないが、北京五輪の男子マラソンで金メダルを獲得したサムエル・ワンジルをはじめ、世界的にも著名なランナーを多く輩出している。そして現在、日本に来ているケニア人留学生の大半がニャフルル出身なのだ。

 ケニアには42の民族が存在していると言われているが、世界の長距離界を席巻しているのがカレンジン族とキクユ族になる。「マラソンの聖地」になっているイテンにはカレンジン族が多い。一方、ニャフルルにはキクユ族が住んでいる。個人差はあるが、農耕民族であったキクユ族は狩猟民族であったカレンジン族よりも忍耐強いため、日本の学校生活にも適応しやすいという。また創価大学は独自ルートを開発。ケニアの五大部族のひとつであるカンバ族の選手を獲得している。

 多くの指導者が留学生を獲得したいと考えているが、大学側からは、「お金がかかる」「イメージが良くない」「そこまでして箱根に出なくてもいい」という理由で却下されてきたケースが多い。しかし、時代は変わりつつある。

 留学生がいないと箱根駅伝に出場できない状況になりつつあるだけでなく、日本の大学で競技をしたいと考えているケニア人ランナーが増えているのだ。

 エチオピアも長距離大国だが、来日する選手は非常に少ない。ケニアほど日本とのパイプが太くないのが最大の理由だろう。だが、エチオピアやウガンダなどの長距離大国に柳田さんのような存在が現れれば、状況は変わってくるかもしれない。

これからの留学生事情

“助っ人”というイメージが強い留学生だが、彼らがいることで日本のレベルは間違いなく上がっている。日本人エースは留学生に挑むことで、世界を体感できる。日本人選手にとって良き練習パートナーとなることで、チームのレベルも上昇する。また留学生のいない大学がチームとして勝負していくには、全体のレベルアップが必要不可欠だ。ケニア人留学生の存在がトップラインだけでなく、ボトムラインの引き上げにも役立っているのだ。

 国際化が進むなか、非アフリカ系のランナーが箱根駅伝を目指す時代が来る可能性もある。いずれにせよ、現行のルールが変わらないのであれば、箱根駅伝に出場する大学の大半に留学生がいる時代がやってくるだろう。

 一方で今年から、ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)のインターナショナル区間が従来の2区(8.3km)から4区(7.8km)になり、全国高校駅伝も外国人留学生の起用が「1区を除く区間」から「3km区間」に変更となる。両駅伝は外国人選手の影響力が低下することになった。箱根駅伝も近い将来、外国人留学生に「新ルール」が設けられる可能性がある。

 大人気の箱根駅伝はグローバル化していくのか。それとも日本独自のスポーツイベントとして突き進むのか。外国人留学生の“処遇”で、その未来像が見えてきそうだ。

酒井政人/スポーツライター

デイリー新潮編集部

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