大谷選手からグローブが届いて子どもたちは大喜び…ニュースを報じる側に抱いた違和感 学童野球の厳しい実情を知るべき

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「野球しようぜ!」

 米大リーグ、ドジャースへの移籍が決まった大谷翔平選手が昨年11月、全国の小学校に3個ずつグローブを贈ることを自身のインスタグラムで発表し、大きな話題となった。プロ選手が子ども用の野球用具を寄贈すること自体は珍しいことではないかもしれないが、日本中の全ての小学校に配るというのはスケールが違う。二刀流で超人的な活躍を続けるスターは、グラウンド外でも規格外だ。

 大谷選手のインスタグラムへの投稿には、「野球しようぜ!」というメッセージが添えられた。近年は野球人口の減少が続いている。子どもたちへのサプライズプレゼントの背景には、「野球離れ」を食い止めたいという思いもあったのではないだろうか。昨年末から各地の学校にグローブが届いたという報道が相次ぎ、子どもたちが喜ぶ様子が伝えられている。

 これをきっかけに野球をやる子どもが増えれば、野球界にとってもこの上ないことだ。一方で、安易に楽観するわけにはいかない厳しい現実も存在する。「大谷グローブ」を活かすためには、スーパースターの善意に頼るのではなく、より積極的な取り組みが必要だ。

 全日本軟式野球連盟に登録する小学生の学童野球のチーム数は、10年ほど前には1万3000を超えていた。にもかかわらず、近年はそのチーム数は下降の一途を辿っているのだ。

1162の合同チーム

 学童野球に詳しい球界関係者によれば、

「毎年数百チームずつ減少しており、2022年には1万チームを割りました。日本中学校体育連盟の統計を見ると、09年に全国で30万人以上いた中学校の野球部員が、昨年は13万人台にまで激減し、7808校の中で合同チームが1162となっています。合同チームを組んでいる学校の数ではなく、合同してできたのが1162チーム。高校野球でも単独でチームを編成できず、大会に出るため連合チームを組む学校が年々増えています」

 高校生ぐらいまでは学年ごとの体格差が大きく、本来はできるだけ発育の段階が同じ程度の子どもたちが切磋琢磨することが望ましい。よほど早熟な子でない限り2学年上の先輩たちと一緒にプレーするのは無理がある。だが、1年生まで駆り出さないと人数がそろわないという状態では、そんなことも言っていられない。合同チームを組んでいる学校以外にも、そのような人数ぎりぎりの野球部が少なくないであろうということを考えれば、チームを維持していくこと自体に困難な状況が広がってきていると言わざるを得ない。背景には少子化という要因もあるとはいえ、それだけでは説明が付かないほど急激に裾野が縮んでおり、野球への関心が低下している現状が浮き彫りとなっている。

 野球は親しむまでのハードルが高いスポーツだ。複雑なルールを理解するのには時間がかかるし、実際にやるのも難しい。サッカーであれば、レベルはともかく、子どもを2チームに分けてボールを蹴らせればゲームになる。かたや、野球の試合を成立させるには、「投げる」「捕る」という動作にそれなりの水準で習熟していなければならない。

 そこで、野球経験のない小学生に大谷グローブについて訊くと、

「(学校に届いているかも)知らない。野球をやっている子はキャッチボールするのかもしれないけど、(自分は)やらないし」

 そう、すげない答えが返ってきた。

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