【能登半島地震】「来ないで!」と言われる被災地で、各局のキャスターは何を語ったのか 群を抜いていた元NHKアナ

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群を抜いていた「生中継力」武田真一キャスター

 筆者が強く印象に残ったのが、日本テレビの午前中の情報番組「DayDay.」の武田真一キャスターだ。元NHKアナとして阪神淡路大震災、東日本大震災も熊本地震の現場も取材した経験がある。それらの震災と比べても今回は「かなり、大きな被害だと感じます」と実感を語った。

 1月8日と翌9日の2日間、現地から生中継した。キャスターの現地中継としては他の番組に比べて遅い方だ。それでも落ち着いて、原稿を読むだけで終わらせることなく、終始カメラ目線で確かな言葉を吐いていたのはさすがだった。

 スタジオからMCの山里亮太が「我々も見ていて何ができるんだろうと動きたいが、そうした動きの受け入れはどのくらい進んでいるのか?」と質問すると、武田キャスターは次のように返した。

「ボランティアセンターが立ち上がるという動きもあるんですが、まだ外からボランティアを受け入れるわけにはいかないというのが現状のようです。漁師のササナミさんがおっしゃっていたんですけど、とにかく全国の人には“今は見ていてほしい”ということでした。交通の便も悪く、支援を受け入れきれないという現状を被災者のみなさんご自身がよくわかっていらっしゃるんですね。また被災者のみなさんご自身もどこから手をつけていいのかわかないという心情もあるんだと思います。

 今はおっしゃる通り、大勢のボランティアが被災地にアクセスできる状況じゃなくて、ここに滞在できるという状況でもないんですね。ただ、避難所でみなさんのお世話をされている方自身も被災した人、避難した人たちなんです。ですから避難が長引くにつれて、疲れも溜まっていくと思いますし、一刻も早く、外からですね、支援をどう送り込むのか。これは検討が必要だと思います」

 アクセスの悪さも支援を遅らせる要因だと話し「非常に困難な災害だと思います」と語った。さらに東京などで番組を見ていて、現地で何かしたいと考えている人たちに向けて語りかけた。

「ですから私たち、この支援というのは息長く、続けていかなくてはいけないと感じています。全国の人たちからの手が必要になる時は必ず来ます。それまで、私たちにできることは“気にかけておくこと”“心を被災地に留めておくこと”。それが今できるもっとも大切なことだと思っています」

 言葉の語彙の豊かさと適切さ。さらに言葉を発する時の間合いの取り方など、視聴者の心に飛びこんでくるような伝え方をする。この人は徹底して報道向きのキャスターかもしれない。

「現地報道」の意味とは

 番組でメインのキャスターがわざわざ現地に赴く意味はなんだろうか。今回のように道路事情が極端に悪ければ批判の声も聞こえてくる。どんな意味があるのか改めて考えてみよう。

 テレビでよく見る有名人が来てくれることで、地元の人たちも安心して心を開き現状を話してくれるというのはあるだろう。それは精度の高い報道につながっていく。また、伝える言葉を持ったキャスターたちならば、視聴者に届く伝え方ができる。ベテランのキャスターになればなるほど的確で人間味のある言葉に置き換えて伝えることができる。

 だが、日本テレビの武田アナの言葉を聞いて、ほかにも意味があることに改めて気がついた。被災した人たちが勇気をもらうということだ。自分たちは一人ではない。みんなが応援してくれる。そんな思いになれる。それもキャスターが現地に入る大切な意味なのだろう。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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