師匠からは「チャド、今日は負けてもしょうがないよ」 曙にとって“特別な相撲”になった一番とは

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優勝11回「若貴がいたから。僕がいた」

 待ちに待った「曙貴時代」の夜明けだった。東西に揃う同期生の両横綱が競い合う姿を、ファンは待ち望んでいた。

 春場所、曙は貴乃花を寄せ付けず、八回目の優勝を飾る。しかし、ファンの期待も虚しく、2人が優勝を争うシーンは、多くは見られなかった。230キロという体重がヒザに負担をかけ、従来の動きを失った曙は、貴乃花に独走を許してしまったのだ。

 30歳を前にして椎間板ヘルニア、その後は太ももを痛めて休場しがちになった曙は、平成12年名古屋場所で奇跡の復活優勝を果たす。

「10回の優勝がボクの夢でした。あれだけつらいケガがあったのに、夢を果たした後、急に相撲がおもしろくなってきたんです。最後の最後で、不思議ですよね(笑)」

 九州場所、11回目の優勝を遂げた曙は、翌年初場所、相撲を取ることなく引退を表明。

「若貴がいたから、僕がいた」

 やり尽くした男の笑顔が、そこにはあった。

武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。

デイリー新潮編集部

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