能登半島地震、石川県の「死者名」非公表の是非 専門家は「災害の教訓を語り継ぐ際に重要」
今回の地震では今月12日までに、石川県で200名を超える死者数が確認されている。しかし、亡くなった一人ひとりの氏名はいまだに伏せられたままだ。近年、災害犠牲者の氏名が非公表にされてしまうケースが増えているというが、それは果たして良いことなのだろうか。
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石川県は3日の夜から随時、安否不明者の氏名を公表している。その理由は当然、捜索や救助活動に必要な情報だからである。だが、地震による死者の氏名に関しては、災害対策本部に聞くと以下の通りだ。
「今のところ死者の氏名を公表するつもりはありません。公表する意味があまりないからです。今後、仮にこの問題への社会的関心が高まったら、関係機関との協議を経た上で、ご遺族の同意を得られた方は公表するかもしれませんが……」
自治体によっては“事なかれ主義”が
なぜ、石川県はかような判断に至るのか。静岡大学の牛山素行教授(災害情報学)はこう語る。
「10年ほど前までは、災害で亡くなられた方の氏名が公表されるのはごく当たり前のことでした。けれども近頃、理由が不明瞭な場合が多いのですが、公表されない例が増えてきました。個人情報保護への意識の高まりなどを背景に今、公表しないほうが無難ではないか、という空気が広まっているように感じます」
災害が発生した際、安否不明者や死者の氏名を公表するかどうかは各都道府県の判断に委ねられている。昨年3月、安否不明者の氏名については原則的に公表するよう内閣府(国)がようやく指針を示したが、死者のほうは全国的な基準が定められないままで、自治体によっては“事なかれ主義”が続いているという。
全国紙の社会部記者の解説によれば、
「2011年の東日本大震災では岩手・宮城・福島の3県が、16年の熊本地震では熊本県がそれぞれ死者の氏名を公表しました。しかし、18年の胆振(いぶり)東部地震では北海道が各市町に判断を委ねた結果、道内で対応が割れて混乱が生じた。13都県にわたって死者が出た19年の台風19号でも対応が割れ、その内の8県は氏名を公表しませんでした」
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