視聴率よりも気になった紅白の「意外な問題点」とは 楽器も踊りもできない歌手はオワコンなのか

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「歌手」だけでなく「アイドル」の定義も変えた紅白 ハイライトの外側でも魅力を発揮したベテラン勢

 歌よりもハイライト映え、「歌合戦」ではなく「パフォーマンス合戦」。それが紅白の求める歌手なのだ、という姿勢は、終盤のYOASOBI「アイドル」のパフォーマンスで最も強調されていた。

 歌うikuraさんを中心に、日韓の男女アイドルが代わる代わる登場。主役のはずのYOASOBIが目立たないという批判があったものの、華やかなステージは見応えがあった。SNSでは旧ジャニーズ勢がいたら実現できなかったレベルの高さ、という辛辣な声も上がっていたほどだ。

 ただ、日本のアイドル観はそもそも、下手な子がうまくなっていくのを応援していくスタイルだった。もっといえば歌や踊りが拙くても、多少ファニーフェイスだろうと、その場にいるだけで目を引くオーラがある人を、「アイドル」と呼んでいたのではないだろうか。

 それが昨年末の紅白では、完全に塗り替えられた。「ハイライト用に数秒切り取っても、見栄えがする容姿やダンス能力を持つ人間」だけをアイドルと呼ぶのだと。ようやくグローバルな水準に追いついてきたと喜ぶべきだろうが、わずかに寂しさも残る。

 パフォーマンス至上主義が目立ったとはいえ、個人的には楽器を弾けるベテラン勢の職人芸に目を見張った紅白でもあった。特に白組、10-FEETに藤井フミヤさん、YOSHIKIさん、寺尾聰さんとそのバックを固めるギター・今剛さんやキーボード・井上鑑さんたち。そしてQUEEN。いずれもいぶし銀のスキルと、年下の歌手に対する優しい気配りが垣間見えた。

 緊張でガチガチの有吉弘行さんを優しくリードするフミヤさんや、後輩ボーカリストたちの見せ場を引き出していたYOSHIKIさんやQUEEN。舞台の後方で星野源さんと笑顔で腕を組む寺尾さんの姿もほほ笑ましかった。急逝したチバユウスケさんの名前を叫んだ10-FEETのTAKUMAさんは、アンプに後輩バンドの名前を入れていた。彼らの音楽スキル・人間スキルの高さは、ハイライトの数秒切り抜きではわからない。そこにはやっぱり、じっくり見ないとわからない良さというものがあった。

 好きな歌手を応援するのがひとつの楽しみ方ではあるが、初めて知った曲や歌手の良さに気付くのも紅白の醍醐味だったはず。ハイライト至上主義に傾き続ける限り、視聴率だけでなく紅白に出たいという歌手も失っていくだろう。それとも来年からはもう、「歌合戦」という名前さえ捨てるだろうか。そのほうがよほど、「ボーダーレス」な内容が実現できそうだ。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部

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