「藤井さんに負けてから将棋へのモチベーションが…」 永瀬拓矢九段が王座戦死闘で感じた「藤井八冠が負けない理由」
「将棋が残酷と知ってはいました。でも…」
この王座戦五番勝負で、永瀬は藤井の強さを痛切に感じた瞬間があったという。
「終盤です。他の部分ではそれほど劣っていなかったと思うんですよ。終盤の時間のない中での読みのスピードは本当にすごい。あれが藤井さんがタイトル戦で負けない理由なんですね。将棋は恐ろしいです。勝利寸前までいっても、終盤だけで吹き飛ばされてしまうんですから残酷です。いや、残酷と知ってはいました。でもここまでとは思っていませんでしたね」
王座戦の後、永瀬の調子はそれほど良くないように見える。王将リーグも4連勝で首位を走っていたのに連敗で挑戦権を逃した。
「自分でもよくわからない現象が起きているというか、明らかに調子がおかしいですね。勝っている局面で正しい対応ができない。あと終盤で敵玉の詰みも不詰みもわからないことが多くて、詰んでいると思って詰ましにいったら詰まなくて負けた将棋も何局かありました。やっぱり王座戦の影響というか、反動が大きいです。
将棋へのモチベーションも、さすがに下がったように感じますね。そのことで棋力も下がってしまい、それを取り戻すのに苦労しています。時間が解決するのを待っていると多分、悲惨なことになるでしょうけど、どう抜け出せばいいのか……」
VSを再開
もちろん永瀬が立ち止まったままでいるはずがない。王座戦の後も、藤井とのVS(1対1で練習将棋を指す会)は続いているという。
「負けた王座戦第4局の2日後に藤井さんにVS再開を打診するメールを送りました。これまでは藤井さんの地元の愛知でやることが多かったですが、藤井さんが東京で予定があるということで、私の研究室で2回ほど行いました。持ち時間双方30分で、切れたら1手1分未満です。1局指した後にお昼を食べて、それから1、2局指して解散します。お昼は私がお弁当を買い出しに行きます。藤井さんは顔を知られていますからね。2回やったVSはあまり熱戦にならない感じです。途中でどちらかのミスで形勢が大差になってしまうことが多くて、終盤の競り合いにならない。いずれにせよ、藤井さんとVSが再開できたことはうれしいです」
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