篠山紀信さん(83)、坂田利夫さん(82)の死因「老衰」はなぜ「もっとも苦痛の伴わない死」と呼ばれるのか 医師が「まるで眠るような…」と語る最期の瞬間とは
昨年末以降、著名人の訃報が相次ぐなか、深い悲しみとともに驚きを持って受け止められたのが、「アホの坂田」こと芸人の坂田利夫さんと、「時代」をキリ撮り続けた写真家・篠山紀信さんの死去だった。多くの人にとって“突然の別れ”となっただけでなく、2人の死因がそろって「老衰」だったことで“まだ若いのに……”と意外に映ったという。
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【写真】厚労省資料から読み解く「老衰」の意外な真実 10年前から急上昇、女性では死亡原因の2位に浮上
坂田氏は昨年12月29日、篠山氏は1月4日にそれぞれ老衰により亡くなった。老衰は理想の死に方とされる“ピンピンコロリ”と同様、「痛みを感じない幸福な死」とされる一方で、実は明確な定義は国際的にも存在しないという。
都内で高齢者医療や地域医療に携わり、これまで多くの高齢者を看取ってきた新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が話す。
「一般的に老衰とは、加齢によって全臓器の機能が低下し、生命維持が叶わなくなって死に至る状態をいいます。厚労省の死亡診断書記入マニュアルによれば、〈死因としての『老衰』は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ〉用いられるとある。私自身、これまで死亡診断書に『老衰』と記載したケースは多いですが、そんな医療従事者の立場から言えば、ここでいう〈高齢者〉とは80歳以上を指すと感じています。なかには70代後半で亡くなった方に『老衰』と書いたケースもありますが、あくまで例外的な事例との認識です」
実際、厚労省の人口動態統計(2022)によると、男性の場合、死因に占める老衰の割合は75歳を超えてから少しずつ増え始め、95~99歳で20%強、100歳以上で約35%となっている。
「死因3位」の背景
日本人の死因は、1位が“がん”など「悪性新生物(24.6%)」、2位「心疾患(14.8%)」に続く3位に「老衰(11.4%)」が入っている(人口動態統計2022)。
「老衰が死亡原因の3位に入るのは2018年頃からですが、高齢者人口が増加しているため、当然の結果と受け止められています。老衰と自然死はイコールと考えられており、ヒトの遺伝子の持つ寿命が定めに従って機能停止に陥る――そんなイメージで捉えられることが多いです」(岡田氏)
さらに近年、老衰が増えている理由として、
「戦後初期と比べて日本人の平均寿命は30年近く延びており、それも老衰死の増加要因の一つに挙げられます。背景には日本人の栄養状態および衛生環境が向上・改善されたこと、そして病気予防の知識の確立・普及といった面が影響していると考えられます」(岡田氏)
見過ごせないのが、老衰を迎えられる人の特徴として「健康体」であることが挙げられる点だ。
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