冤罪被害者は「440万円」、エイズ受刑者は「100万円」 当局のミスを訴えた「生命の値段」を巡る裁判の見方

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ジュラルミンケースの購入

 刑務所で採血された血液は八王子医療刑務所(現・東日本成人矯正医療センター)に送付され、1次検査の結果、陽性であったことが刑務所側に伝えられている。しかし、それが男性側に伝えられることはなかった。「八王子医療刑務所から回答がない」旨の“回答”のみが繰り返されたという。

 その後、男性は、検査結果を教えてほしいという願箋(刑務所内で訴えを提出する書面)を書き続けたが納得する回答は得られずじまい。陽性の可能性を大いに感じながら、検査結果の教示と治療を求め続ける他なかった。

 むろん受刑者の権利が一般の人とまったく同じようなものであるべきではないだろうが、一方でわざわざ検査をしたにもかかわらず、結果も伝えなければ治療もしないというのはかなり不可解だ。

 何があったのか。

 実は、八王子医療刑務所から2次検査を担う東京都保健局に検査を依頼するという流れを取るのが通常だった。が、血液の格納に必要なジュラルミンケースの購入を八王子医療刑務所が忘れてしまっていたのだという。購入申請が煩雑だったのか判然とはしないが、最初に採血してから陽性の告知まで実に1年2カ月を要している。

“勝訴”と言えるのかもしれないが

 男性は2017年に提訴。2023年1月に出所したが、麻痺は残っており、日常生活に杖が欠かせない。

 エイズの場合、1次検査で偽陽性である確率は極めて低い。かつては不治の病とされ、著名人も含め多くの人々の生命を奪ってきたが、近年は治療で発症を防ぐことができる。実態に即して検査の6日後に陽性の結果を受け取っていれば、エイズを発症せずに済んでいた可能性が高いというのが男性側の主張だった。

 結局、裁判所は和解を促し、国が100万円を支払って遺憾の意を表明することで決着することになった。この100万円をどう見るか、さまざまに意見はあるだろう。

「受刑者には適切な医療上の措置を受ける権利があるとされているわけですが、今回の件を踏まえれば、実際にはなかなかそれが実現していないのが拘置所や刑務所の中の実情だと捉えた方が良いのかもしれないですね。この手の裁判で国側が責任を認める形で支払いに応じるというのはレアケースとされており、その意味では男性側の“勝訴”と言えるのかもしれません。が、今回受け取れた額のほとんどは弁護費用に消えたと聞いています」(同)

 いくら金を受け取っても納得はできない、というのが2つの裁判の原告の本音だろうか。大川原化工機の件について、国と都は一審判決を不服として控訴する方針を固めたという。

デイリー新潮編集部

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