お見合いしたその日に「私、妊娠しているから」 クラリネット事件で夫を激怒させた“令嬢妻”の本性
夫婦には力学がある。どちらも我慢せずに均衡が保たれるのが理想だろうが、なかなかそううまくはいかない。一般的には経済力があるほうが威張り散らす傾向にある。
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「うちはいつから均衡が保てなくなったのかなあ……最初からかな。なんだか妻との力関係は、何度も入れ替わったり逆転したりしてきたような気がします。今もまだ落ち着いてはいません」
安西康太朗さん(48歳・仮名=以下同)は、年齢にしては深い眉間のしわをさらに深く寄せながらそう言った。3歳下の妻・美重子さんと結婚して10年になる。ふたりは遠い親戚にあたるという。
「僕はそもそも、結婚するつもりはなかったんです。収入だって高いわけじゃないし、家族というものに憧れもなかった。自分が育ったのは、ごく普通の家庭でしたけど、あんまりいい思い出もないし……。仕事をしながら趣味でクラリネットを吹いているのが楽しかった。仲間もいたし。だけど田舎の親がやたらと心配して、親戚に誰かいないかと触れ回った。それで母の妹の夫のさらにいとことかなんとかの美重子と見合いをさせられたんです」
見合いをしたそのとき、美重子さんはふたりきりになると「断っちゃっていいですからね」と言った。どうしてかと尋ねると、「私、妊娠してるから」とさらりと言って笑った。
「なんだかその潔さに、この人いいなあと思ってしまったんですよ。あとから知ったんだけど、彼女は資産家の娘だったから、別に結婚しなくても子どもは育てていける。ただ、結婚しないと世間に顔向けができないと親が思ったらしいんです。それで白羽の矢が立ったのが僕だったわけ。アイツにはこういう女をあてがってもいいと親戚が思ったんでしょうね。オレら、バカにされてるってことですよね、だったら結婚しちゃいましょうと僕は言いました。美重子は驚いていたけど、『子どもを一緒に育ててくれるの?』って」
美重子さんも変わった女性だが、康太朗さんも変わっている。ふたりとも親戚の間では変わり者だと思われていたようだ。
お腹の子の父親は
そうやってひょんなことから結婚したふたりだが、日に日に大きくなる妻のお腹を見てるうちに康太朗さんは、自分の子が生まれてくるという思いにとらわれた。
「実際には美重子と不倫関係にあった男性の子なんですよ。結婚後に、『この子の父親が誰かって気にならないの?』と言われて、別にどうでもいいけど一応聞いておくかと思ったら、なんと美重子が退屈しのぎにアルバイトをしていた会社の上司だった。上司も妊娠は知っているんだそうです。でももうオレの子だから、生まれても上司には会わせないと僕は決めました。美重子にそう言ったら『ありがとう』と涙していたんですが……」
生まれたのはかわいい女の子だった。美重子さんの両親がやってきて、事情を知る義父は「こうなったらしょうがない。康太朗くん、頼むよ。こんな子を生んだ娘とは縁を切るつもりだから」と帰って行った。康太朗さんはそのやりとりを寒々しい思いで聞いていた。
「美重子の両親は、不倫の子を産む娘と縁を切りたくて結婚させたんじゃないかと思いましたね。おまえはうちの恥だと病室で言うんですよ。美重子がかわいそうだった」
自分が一生守っていくからと、彼は妻に言った。
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