【大川原化工機冤罪事件】裁判所が認めた違法捜査の数々…逮捕され拘留中にがんが悪化し亡くなった開発者の長男は「違法行為を行った警察官には刑事責任を」
2020年3月、大川原化工機株式会社(本社・神奈川県横浜市)の大川原正明社長(74)ら3人が「武器の製造に転用できる工作機械を無許可で輸出した」という外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕された。しかし、公判直前になり起訴は取り消された。同社らは違法な逮捕や長期勾留などにより損害を受けたとして、国と東京都を提訴。手柄欲しさ、出世欲、組織防衛で事件を作り上げた「捏造冤罪」は、元幹部社員の命までをも縮めた。年の瀬、許しがたい権力犯罪に司直の判断が下った民事裁判をルポする。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
あっという間に傍聴希望者が定員に
12月27日午後2時、大川原社長と元役員の島田順司氏(70)、勾留された7カ月の間に体調を崩し胃がんが原因で死去した相嶋静夫氏(享年72)の遺族が、国(検察庁)と都(警視庁)に総額約5億6000万円の損害賠償を請求した裁判の判決が東京地裁103号法廷で言い渡された。
通常、傍聴希望者が殺到する裁判は整理券を配り抽選するが、なぜか先着順だった。裁判が始まる4時間ほど前の午前10時過ぎに法廷前に到着すると、既に10人ほどが長いベンチに座っている。
傍聴券を求め並んでいた女性は薬学部出身で、商社で医薬品や化学製品の輸出の仕事をしているという。「経産省とも年中、折衝していました。こんなことをされるのなら怖くて仕事できません」と話す。
そのうち、大川原化工機の広報担当で総務課役員の初沢悟氏や、捜査機関によるひどい取り調べについて打ち明けてくれた女性社員も姿を見せた。この間、裁判所職員が人数を数えに来る。11時半頃に70人ほどに達して早くも締め切られ、傍聴券が配られた。
違法捜査を認定
桃崎剛裁判長の主文朗読に大川原社長はほぼ頷いていたが、ときどき怪訝そうな表情を見せた。
注目は、東京地検、つまり国の責任を認めるかどうかだ。警視庁、つまり東京都の責任を認めることは予測できた。何しろ2023年6月の証人尋問で、警視庁公安部の現職刑事が「まあ、捏造です」と仰天の告白までしていたのだ。
そしてこの日、言い渡された判決では、警視庁と東京地検の責任も認め、総額約1億6000万円の支払いが命じられた。
判決文では「捏造」には触れず、「捜査不足」の違法性から原告勝訴とした。それでも裁判長は、安積伸介警部補(現・警部)による島田氏の取り調べを「殺菌の解釈をあえて誤解させ(中略)供述調書に署名捺印するように求めた。偽計を用いた取り調べで違法」と厳しく指弾した。
同警部補について島田氏は「調書の内容が違うので修正を申し出たがペンも貸してくれない。『修正する』と言ってパソコンのキーを叩いていたが、見せてくれなかった」と証言していた。さらに、同警部補は防衛医科大学校の四ノ宮成祥校長(細菌学)の参考人聴取を担当しており、四ノ宮氏の証言を都合よく捏造した報告書を作ったとされている。
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