キラー・カーン 尾崎豊は常連客、忠実に守った母の教え…力士、プロレスラー、居酒屋経営者の優しき人生

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アンドレ“足折り”事件の真相は?

 カーンと言えば、あの、“大巨人”、アンドレ・ザ・ジャイアントの右足を、そのニードロップで折ってしまった(*骨にヒビが入った)という伝説が有名だ(1981年5月)。治癒後、カーンが謝ると、アンドレは言った。

「気にするな。それよりお前は“アンドレの足を折った男”として、これから売り出せばいい。そして復讐に燃える俺と全米各地で試合をする……。これは盛り上がるぞ! どんな会場でも、フルハウス(満員)だ! これからも、ガンガン2人で儲けような!」

 アンドレの心持ちもまさしくジャイアントだが、同時にカーンを、優れた仕事仲間だと思っていたことがうかがわれる。

 もっともこの“足折り事件”、カーンが折ったものではないという説もある。元新日本プロレス関係者によれば、試合中、アンドレが転倒した際に足首を痛めてしまい、それに気づいたカーンが、あえて自分のニードロップで折れたことに見せかけたもの――だという。

 この新日本関係者は、直接試合を観ていたわけではないので、筆者はこの説にはやや懐疑的なのだが、前掲の自伝においても、この下りに関して、カーンはあいまいなタッチで書いている。いずれにせよ、こういった噂がついて回るほど、カーンの人間性や、相手を思う気持ちは業界で知れ渡っていたと言える。

 1985年、他の選手たちとともに“ジャパンプロレス軍団”として新日本プロレスから全日本プロレスへ戦場を移し、ジャイアント馬場と一騎打ちしたこともある(1985年2月22日。カーンのリングアウト負け)。その試合についての、取材時のコメントも忘れ難い。

「いやいや、馬場さんて、故郷(新潟県)のスーパースターよ? もう俺、緊張というか、アガッちゃってさ(笑)」

 この時、既に馬場は鬼籍に入っていたが、屈託のない言い方に、人の好さを感じたものである。

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