インド経済の飛躍はモディ首相への“評価”にかかっている…アメリカも注視する「極めて危うい構図」とは

国際

  • ブックマーク

国際的にも注目されているモディ氏

 インド経済の好調には同国に対する国際的な好感度の上昇が関係している。この状況に最も寄与しているのが、首相のナレンドラ・モディ氏であることは言うまでもない。

 モディ氏は昨年、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長として大きな存在感を示した。グローバルサウス(新興・途上国の総称)の盟主を自認するモディ氏は、G20サミットの場でグローバルサウスの利益を代弁する役割を積極的に果たしてきた。

 さらにモディ氏は、米国との良好な関係を維持しながら、ロシアとのパイプも維持している。「今は戦争の時ではない」と呼びかけるモディ氏は、ロシアを訪問し、西側諸国を敵視するプーチン大統領と会談する意向を見せている。

 このように、動向が国際的に注目されるようになったモディ氏だが、今年は試練の年でもある。総選挙(下院選)が今年4月から5月にかけて実施されるからだ。

 3選目を目指すモディ氏は、昨年末から総選挙に向けた活動を本格化させている。足元の世論調査では、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)が、前回(2019年)と同様、単独で過半数の議席を占めると言われている。

 モディ氏の地盤は固いようだが、気になるのは権威主義的な傾向だ。

少数派に対する深刻な人権侵害

 BJPから選出されたインド議会の両院議長は12月19日、警備態勢の検証を求めた100人超の野党議員に対し、「秩序を乱した」との理由で登院停止を命じた。下院の議場に2人組の男が乱入した事案から起こった検証要求だったこともあり、野党は「民主主義への攻撃」として反発。米人権団体も強く非難する事態となっている(2023年12月20日付CNN.co.jp)。

 モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており、米印関係を揺るがしかねない問題も持ち上がっている。

 米検察当局は2023年11月29日、米国内でインド系米国人のシーク教徒活動家を暗殺しようとしたとして、インド国籍の男を起訴した。米国政府は「この問題を深刻に受け止めている」との認識を示したが、インドとの戦略的パートナーシップを強化する方針を今のところ変更していない。

 米国のインドへの接近は「ライバルである中国を牽制するカードとして利用する」というご都合主義の色彩が強い。一方、モディ氏率いるBJPはネオファシズム的な側面があるとの指摘がある(12月21日付ニューズウイーク日本版)。

 自国の主権を侵害する事案が続けば、米国を始め西側諸国はインドとの良好な関係をご破算にするのではないかと筆者は考えている。

 西側諸国から見たインドのイメージが悪化すれば、同国の経済に対する認識もがらりと変わる。インド経済が飛躍を遂げるかどうかはモディ氏の評価にかかっていると言っても過言ではない。だが、この構図は極めて危ういのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。