「アナタハンの女王」と呼ばれた女性の生涯 日本兵32人に囲まれ、そのうち5人と“結婚”、4人は不審死か別の男に殺害され…異様な孤島生活とは

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神様は死なせてくれなかった

 救出され名護に帰った後に勤めた料亭「南栄楼」の上司、伊波(いは)寛一(取材当時76歳、平成13年没)に、和子はこう打ち明けたことがあった。

「アナタハンで菊一郎が殺された後私は自殺を2度図ったの。1度目は海に飛び込んだけど、苦しくなって泳いでしまって、2度目は木の枝に縄をかけて首を吊ろうとしたけど、枝が折れてしまって死ねなかった。私が死んでしまえば、男たちの殺し合いは無くなると思ったけど……神様は死なせてくれなかったのね」

 和子は、この言葉の後に「神様は知っていたのね。私が悪くないことを」そう付け加えたかったに違いない。伊波はそう思ったという。男たちの殺し合いに一番苦しんでいたのは、和子自身だったのかも知れない。死に切れなかった和子は、生き抜いていく覚悟を決めた。それには男たちの言い成りになる生き方を選んだ。

 菊一郎を殺し、和子に選ばれたYもまた、彼女と同棲して2年後に「海鳳丸」の水夫Sの手によって殺害されてしまった。

 ***

 仲間が次々と命を落とすなか、男たちは遂に和子の「処刑裁判」を開いた。その残酷な“判決”を知った和子は――。つづく後編ではアナタハンからの脱出、そして帰国後も見舞われた男がらみの波乱などについてお届けする。

後編【「私が悪い女だから、沢山の男が命を失ったように言われています…」 日本へ帰国、51歳で亡くなるまで続いた「アナタハンの女王」の苦悩】へつづく

秋本誠

デイリー新潮編集部

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